酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「THE WAVE~ウェイヴ」が覚醒させるリアルな恐怖

2009-12-07 00:36:51 | 映画、ドラマ
 週末は会社員時代の後輩女子3人に囲まれ、和やかなひと時を過ごした。いずれとも4年ぶりの再会である。俺ぐらいの年になると、<忘れられていないこと>がしみじみ嬉しい。

 当時は「会社でキャバクラできて幸せですね」なんて皮肉を言われたりしたが、退社後5年、社会の荒波に揉まれた俺はすっかり更生した。現在の仕事場ではまじめで通っている……。ホンマかいな? 

 南アW杯の組み合わせが決まった。E組は強豪揃いで、日本の決勝トーナメント進出は厳しいだろう。従来通り〝ガラス細工〟のオランダを応援するが、魅力的な攻撃陣を擁する〝本命〟スペインに浮気するかもしれない。

 前置きが長くなったが、本題に。ドイツで年間興行成績1位を記録した「THE WAVE~ウェイヴ」(08年/デニス・ガンゼル監督)を見た。本作を見た方は、同じくドイツ映画の「es〔エス〕」(01年)を思い浮かべるはずだ。ともにアメリカで実際に起きた事件(実験)を基に制作された作品で、「es」は刑務所、「ウェイヴ」は高校を舞台にしている。

 とある高校で特別実習が始まる。生徒がテーマを選択し、1週間続けて講義を受けるというシステムだ。水球部コーチで体育教師のベンガー(ユルゲン・フォーゲル)は<無政府主義>の講師を希望するも叶わず、渋々<独裁主義>を担当することになる。

 ベンガーは旧東ドイツで反体制運動に関わっており、冒頭で着ていたラモーンズのTシャツが、その感性を端的に表している。独裁と管理に対峙した経験が、実習に役立つことになった。ベンガーは独裁の仕組みを生徒に身をもって体験させるため、以下のルールを定める。

<ルール①>=様をつけてベンガーを呼ぶこと
<ルール②>=ベンガーの許可なく発言しないこと
<ルール③>=仲間と協力すること
<ルール④>=制服として白シャツを身に着けること

 生徒に慕われていたベンガーだが、実習クラスが「ウェイヴ」と名付けられた頃にはカリスマと化していた。トルコ系移民、パンク、いじめられっ子、悪童たちは、普段の仲の悪さを克服し、HP作成や街中での落書きなどで「ウェイヴ」の存在を誇示するようになる。ティムのように<実=日常>と<虚=実習>の境界を見失い、「ウェイヴ」に生きがいを覚える生徒まで出てきた。

 水球部員のマルコも熱に浮かされた一人だったが、彼の恋人カロは違和感を覚え、全校に向け警告を発する。「ウェイヴ」は生みの親たるベンガーのコントロールから逃れ、フランケンシュタインの如く自己主張を始めた……。

 本作には、高校生がナチスや社会主義について言及する台詞も多い。ドイツの隣国フランスでは中高生がデモを企画し、政府に方針変更を迫っている。欧米だけではなく、韓国や台湾でも10代がムーヴメントの起点になるケースが目立っている。若いうちから価値を論じ、「ウェイヴ」を起こすことは個の強化と国の活力に繋がるが、日本では〝先進国の常識〟は当てはまらない。国民は飼い慣らされ、とりわけ若者は閉塞感に苛まれている。

 本作に描かれた熱く顕在化した狂気はいずれデッド・エンドで炎上する。より恐ろしいのは、この国に蔓延するしめやかで静かな狂気の方だ。きりもみ状に螺旋を描き、沈黙と服従に堕ちていく。



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