酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

<飲む・打つ・買う>の現在~死語は甦るか

2009-08-13 03:11:57 | 戯れ言
 台風と地震が同時に日本列島を襲った。亡くなった方の冥福を祈るとともに、被災地の一日も早い復旧を願うばかりだ。

 先日、知人女性が経営する居酒屋に足を運んだ時、店を手伝う10代の娘さんに「右翼って何? 左翼とどこが違うの」と尋ねられた。平野啓一郎の「決壊」にも学生の会話の形で描かれていたが、<右翼・左翼>は若者にとって死語になっているようだ。

 感覚だけで<右翼・左翼>をカテゴライズしてきたが、「何?」という本質的な問いに言葉が詰まった。<右翼・左翼>は多様な思想や運動の流れを汲む複合体である。自分なりに考えをまとめ、問いに対する答えを記したい。

 おとといファミレスで、もう一つの死語を発見した。隣のボックスに座った学生4人組のやりとりが、おのずと耳に入ってくる。割愛しつつ一部を再現する。

青年A「俺、飲む・打つ・買うは全部やってる」
青年B「何、それ」
青年C「たけしか誰かが、テレビ言ってたな」
青年D「飲むは酒で、打つはギャンブルで、買うは浪費だっけ」
青年A「惜しい。買うは女。落語くらい聞けよ」
青年B「風俗、行ってるの」
青年A「行ってるも何も、クラスの女、最低でも3人はバイトしてる。勘だけど」
青年B、C、D「……」
 その後も世知に長けた青年Aの独壇場だった。

 落語では江戸っ子の嗜みとして描かれる<飲む・打つ・買う>だが、辞書で引くと「男の悪行の代表」と記してある。自身の経験と照らし合わせてみよう。

 <飲む>と無縁の俺だが、アルコール抜きで体内に奇妙な物質を発酵させ、朦朧と酔生夢死を彷徨っている。 <打つ>は競馬のみだが、レートの高いPOGに参加してからは、新馬戦と未勝利戦が組まれた午後1時までがゴールデンタイムになる。賭け金は大幅に減ったが、より濃密な領域に足を踏み入れてしまった。

 <買う>とは即ち買春で、悪しき風習と考える人が多い。金銭を介した欲望の充足といえば身も蓋もないが、バブル期以降、恋愛まで金銭を軸に回転するようになる。高収入の男性に群がる女性の〝娼婦化〟を嘆く識者もいた。

 遊郭や風俗の成り立ちを社会的に論じるには力不足だが、〝擬似恋愛〟の側面もあると思う。殆どはゲームで終わるが、近松の心中物のように崇高な愛に至るケースは現在もある。もちろん、悲劇的結末も枚挙にいとまない。樋口一葉の「にごりえ」には遊女に入れ揚げた男のストーキングと無理心中が描かれており、草稿のタイトルは「ものぐるひ」だった。

 言葉は世の流れに敏感に反応する。<右翼・左翼>と<飲む・打つ・買う>は固定化、閉塞化した社会で棺に閉じ込められたが、灰になったわけではない。ひとたび地殻変動が起きれば有象無象とともに甦り、街を闊歩する日が来るだろう。



コメント
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