酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

戦争と巨匠たち~クルーゾーとアラン・レネ

2005-06-19 02:53:19 | 映画、ドラマ

 シネフィル・イマジカでアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「密告」(43年)とアラン・レネの「夜と霧」(55年)を見た。ともに戦争と関わりを持つ作品である。

 クルーゾーは「情婦マノン」(48年)、「恐怖の報酬」(52年)、「悪魔のような女」(55年)で知られる巨匠だ。人間の心の闇を照射し、フランス映画独特の苦味とハリウッド風の娯楽性を併せて表現していた。

 「密告」は占領時代、<フランス社会の腐敗を暴け>という号令で制作された。完成作品はナチス批判が色濃く、上映禁止になったというが、トリュフォー(32年生まれ)が11歳でこの映画を見て衝撃を受けたという証言もある。真相は藪の中だ。

 「密告」では、<カラス>の署名入りの手紙が街を混乱に陥れる様子が描かれている。当初はジェルマン医師とローラの不倫にターゲットを絞っていたが、中傷の対象が広まるにつれ、人々は<カラス>の正体を巡って疑心暗鬼になっていく。ストーリーが進むにつれ、入り組んだ人間関係やジェルマンの過去も明らかになる。<カラス>はローラの姉マリーなのか、薄幸のドニーズなのか、それとも……。自殺した入院患者の母、ドニーズの姪であるローランドも絡まり、息付く間もないサスペンスに仕上がっている。
 
 ラストは曖昧で謎めいている。キネ旬のデータベース等では<カラス>が明示されているが、別の考えを持つ方も多いだろう。<カラス>は複数の人間の悪意の集合体ではなかろうか。この作品は、無名性の下、真偽を問わず情報が増幅するネット時代に通じるテーマを内包している。

 解放後10年のアウシュビッツにカメラを据えた「夜と霧」については、別項(2月14日)でも記した。フランス警察がユダヤ人移送に協力した事実を示すスチール写真が修整された経緯を、当事者のフランス政府が半世紀を経て公表したのである。30分ほどのドキュメンタリーだが、繰り返し見ても衝撃が薄まることはない。<廃墟の下に死んだ怪物(収容所)を見つめる我々は、遠ざかる映像の前で希望が回復したふりをする。ある国のある時期の話と言い聞かせ、絶え間ない悲鳴に耳を貸さぬ我々がいる>……。締めくくりのナレーションは現在も有効だ。人類というより、自分自身の罪深さを知らされる作品である。
 
 アラン・レネはその後、意識の流れと現実の狭間を映像化していく。「二十四時間の情事j(59年)、「去年マリエンバードで」(60年)など、「敷居の高さ」は否めなかったが、「恋するシャンソン」(97年)には驚いた。シャンソンの口パクをちりばめ、軽妙でユーモアたっぷりの映画を作っている。老境を迎えて頑固になる人、サバける人とそれぞれだが、アラン・レネは明らかに後者のようだ。

 クルーゾーは終戦後、敵国協力の咎で2年間の活動停止処分を食らっている。日本の映画監督は戦争にどのように向き合ったのだろう。軍部に屈しなかった映画人として語り継がれているのが亀井文夫だ。「戦ふ兵隊」では、リアリズムに徹することで戦場の悲劇を浮き上がらせていた。この厭戦映画がお蔵入りになったことは言うまでもない。

 成瀬巳喜男では「歌行燈」(43年)と「芝居道」(44年)を見た。前者は「滅びの美学」に通底する時代を超えた傑作だが、後者にはさすがに戦時色が窺える。かといっておもねった感はなく、毅然と撮影に臨んでいたのではなかろうか。

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