弱い文明

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GPJ職員「起訴」の報道をめぐって

2008年07月16日 | Weblog
 7月11日、グリーンピース・ジャパン(以下GPJ)の二人が起訴されるに至った。
 検察によって起訴されたら、我が国の刑事裁判では「有罪率99.9%」と言われる。その数値自体が立派に一つのスキャンダル、「日本問題」の一部なのだけど、ここではそのことは取り上げない。このエントリーの狙いは司法を論じることではないからだ。
 ただ、その法的な問題を含め、今回の事件をめぐっては、自分の中に次から次へと様々な問題意識が湧いてくる。考えようとしなくても、湧いてきてしまう。自分でも呆れるくらいに。そろそろ他のことを考えたい、と思っても引っ張り戻される。許してもらえない、かのように。
 様々な論点の一つ一つに今、答えを出せるわけではない。簡単なようでいて、難しい論点ばかりのように思える。かといって、放置していたらますます考えがとっ散らかって、後で苦労するような気もする。だから、あえて途中経過であるままに、どういった論点が引っかかっているのか、自分としてどんなことを考えたのか、とりあえず書いておくべきだろうと思った、このエントリーはその反映で、いわば鯨肉横領告発事件の「私的な中間取りまとめ」の一部である。

○「起訴」のマスコミ報道について
 大手マスコミはそれぞれ、「窃盗と建造物侵入の罪で起訴された」と報じている。
「起訴状によると2人は4月16日、西濃運輸青森支店に侵入し、宅配用段ボール箱に入った鯨肉23キロ(5万9000円相当)を盗んだ・・・」──大体こんな調子で。
 しかし、あらためて不思議な気分になる。GPJの告発レポートでは11万~35万円の価値とされていたのに、それがずいぶん安く見積もられていることもヘンだが、それ以前に、もしGPJの二人がこれを自分達の懐に入れて黙っていれば、「窃盗」も「建造物侵入」の疑いも浮かび上がらなかったに違いない、ということがある。つまり、彼らがわざわざ事を発表して、地検に告発状を提出したからこそ、「窃盗」「建造物侵入」の疑いが発生した、ように見える──というか、実際そうだったりして。
 このあたり、後に裁判で明らかになる、かどうか、あまり期待はしていないが(だからこそ何らかの働きかけが必要なのだが)──日新丸の船員は、自分のお宝が大っぴらにできないものだと知っていたから(荷物の品名に「ダンボール」と書くなど、状況証拠はいくらでもある)、西濃にもあまり強く「遺失」を訴えていたとは思えない。というか、事件以来まったく、当の箱の持ち主の声が聞こえてこないのがそもそもヘンなのだ。純然たる被害者だというなら、顔は出さないまでも、ずけずけとマスコミに被害のことを言い募ればいいものを。

 さて、GPJがみずから事を発表した背景については、マスコミ各紙とも記者会見当初に無難に報じた。しかし告発が「不起訴」に終わってみると、たちまち焦点はGPJ職員による鯨肉の入手法が違法か否かに絞られてしまい、横領の問題、すなわち「日新丸船員の鯨肉入手法は違法か否か」はどこかに飛んでしまった。
 何度でも言うべきだと思うが、これはやはりおかしい。おかしくないと言う人がいたら、その人は絶対おかしい。あるいは単純に、事実を押さえていない。
 GPJによる告発は、受理されたのである。東京地検は証拠の鯨肉を預かり、さらなる情報と捜査協力をGPJに求めた。横領鯨肉の足取りを、それが市場に出回るところまで明らかにしたい、と言っていたそうだ。
 逮捕の前日まで、検察の担当官は乗り気の姿勢を崩していなかった。それが突然の捜査打ち切り・不起訴。この事実を、明快に説明できた新聞記事の類を僕は知らない。いやそもそも、この事実に触れている記事すら見たことがない。

 逆にこういうことも言えるのではないか。
 地検が当初は大いに乗り気であった、大がかりな不祥事の疑いが濃厚である事件の告発者が、しかしその告発のプロセスにおいて違法行為を為しために逮捕されたということは、裏返せば彼らは逮捕の危険を冒してまでこの告発に踏み切ったという、客観的な現実があったことになる(本人達の意識とは関係ない。本人達は、それがギリギリ違法行為を免れると期待していたのだから)。それほどの内容を持った現実が、一転「不起訴」になったことは、少なくとも告発者の「窃盗」「建造物侵入」などのベタな容疑より、はるかにニュース価値が高い「事件」である。普通のジャーナリストなら、そのような嗅覚判断があってしかるべきではないだろうか?
 僕がGPJの二人の「逮捕~起訴」報道に接して強く思うのは、何と言ってもその点だ。彼らが起訴されたことより、共同船舶・鯨研らが「不起訴」のままであることの方が重大なのに、まったくその重大さに見合う報道がされていないこと。今さらながらに呆然としてしまう。


付録:「事後承諾」について
 いろいろな記事を検索してみると、すでに二人が逮捕された最初の段階で、たとえば毎日新聞では「鯨肉窃盗:持ち去り「現場の判断」--グリーンピース会見」(6月21日夕刊)というタイトルの記事を出している。
 他紙も似たような報じ方をしていたかどうかは確認していない。が、少なくともこの頃の新聞記事などに、もう少しちゃんと目を通しておけばよかった、と僕は後悔している。こうした記事を読んでいなかったため、今回の鯨肉入手の手法は星川事務局長以下、GPJの幹部があらかじめ検討してゴーサインを出した計画的なものであるという、憶測を書いてしまったのである(グリーンピース・ジャパンを断固支持します・追記の中ほど参照)。事実はそうではなく、現場の二人(佐藤さんと鈴木さん)がその場で判断してやったことを、後から連絡を受けた星川さんらが事後承諾した、というのが真相だった。そのことを7月2日「クジラどーなの?公開討論会」にて、星川さんの口から直接聞いて「えっ!?」と思ってしまったのである。まったく、自業自得というものだ(この日の話の中身についてはJANJANの記事がよくまとまっている)。
 事後承諾と聞くと、なんだ、グリーンピースもいい加減だな、指揮系統はどうなってるんだ?などと考える向きもあるとは思うが(僕も一瞬そう考えたが)、ある意味、欧米型の組織の特色がGPJにも息づいている、と考えることもできる。つまり、現場の人間のスタンドプレーを許容する、その代わりに個人の責任を重く見る、というようなことだ。たとえば日本のサッカーが、組織力はあっても、個人の力で打破することができない(端的には優秀なFWが出てこない)という欠点を指摘されて久しいわけだが、それと同根の話でもあり。
 ただ、もちろんこのたびの鯨肉「確保」に関しては、その伏線となる申し合わせはスタッフの間でできていた。内部告発者の情報を元に、入港してから市場に出回るまでの鯨肉の行方を追うことができればなあ、というような大まかな申し合わせである。それが途中で「証拠品確保」という展開になるとは、実際にその行為に及んだ二人にとってすら予想外なことだったようだ。が、それは基本的にGPJの活動の本意に沿うことである、という深い確信を抱いた、その上での「事後承諾」であることを、星川さんは強調していた。そこは肝心なところだと思う。

付録2:不可能だった代案の例
 ところで、その星川さんの話を聞いていて、一つハッとしたのは、「市場に出回るところまで・・・」という部分である。
 僕は前々回、「GPJには他にどんなやり方があったというのか/代案があるなら示してほしい」というようなことを書いた。だけど、自分でその代案を思いついたのである。
 それは、鯨肉に超小型発信機を取り付けて、市場に出回るところまで追跡する、という方法だ。そのような発信機がもしあれば、何も現物を「確保」する必要もなかったんじゃないか、と。

 しかし──考えてみるとこれは様々な問題がある。つまり、
① ターミナルから物品を一時的に拝借する
② 厳重に梱包されている箱を開ける
③ 肉の中に油紙に包んだ発信機を隠し、開けたことが(梱包した持ち主に)バレないように箱を梱包し直す
④ 一時拝借したことがバレないようにターミナルに戻す
──以上4つを短時間で手際よく行なわなければならない。これはCIAの特殊工作員でも雇わなければ無理だろう。
 さらに、これが可能だったとしても、
・発信機は最低でも、切り分けてある一ブロックごとに埋め込まなければならないだろうが、それでも、発信機を埋め込んだブロックが本当に持ち主で消費する以外の場所に持ち出されるとは限らない
・発信機が超小型でバレなかったら、料理されて人の口に入ってしまう危険性がある
・・・という問題がある。
 最後のポイントは笑い話では済まない。窃盗に関係なくても、逆に食品安全法に引っかかる可能性が大だし、発信機を食べた人が健康被害に会いでもしたら、よくて傷害罪、悪ければ殺人未遂罪にさえ問われるかも知れない。
 以上から、この発信機のアイデアは非現実的、という結論に達せざるをえない。「窃盗」の疑いは免れるだろうが、もっと悪い問題をしょいこみかねないわけだ。


追記:
15日深夜、ちょうどこのエントリーをアップしようとしていた頃、二人は保釈されたらしい。詳しくはグリーンピース・ジャパンのホームページ他を参照のこと。

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2 コメント

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Unknown (kkneko)
2008-07-20 17:31:40
つい調査捕鯨の実態という本質から逸れる気がしてしまうのですが、逮捕/起訴(不起訴)問題について正面から捉えられたいい記事ですね。
代案についてですが、事前の聞き込み情報に基づき、マークした船員を配送後から四六時中見張って、横流しの現場を写真等で押えられれば・・と私なんかは思ってしまいました。興信所に頼めば1千万じゃきかない出費になったでしょうが・・。
お2人は証拠を確実に押えられるのは今しかない(失敗すれば来年まで待つことに)と判断されたんでしょうね・・。
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コメント&TBどうも (レイランダー)
2008-07-21 22:36:47
正直kknekoさんの代案もアリだと思います。ただ、二人は箱を開けて中身を見てしまった時点で、「これはもう“確保”だ!立派な証拠なんだから」という気持ちに傾いてしまったんでしょうね。二人の意見陳述を読むと、そんな感じが伝わってきます。
外野が拙速だと言うのは簡単だけど、本人達にしてみればこれまでの経緯から、生じっかな材料では勝負できないという気持ちもあったんでしょう。それだけに、自分の逮捕より横領「不起訴」の方がショックだったという、鈴木さんの言葉に胸が痛みました。

ところでブログとホームページ「クジラを食べたかったネコ」拝見させていただきました。特にHPの方、「捕鯨と日本」というテーマの中に、これだけの問題が潜んでいるんだなあ・・・と、あらためて感嘆するほど、充実した内容のホームページだと思います。
それに、ご本まで書かれていたんですね。僕みたいなド素人のところを訪れてくださって恐縮です・・・が、今後ともご教示いただければと思います。
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