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インド映画『ヒンディー・ミディアム』も絶賛公開中!

2019-09-14 | インド映画

ぐずぐずしている間に、気鋭のインド映画『ヒンディー・ミディアム』も9月6日(金)から公開中です。この映画、何が気鋭かと言うと、コメディ映画と見せかけて、インド都市生活の現実を鋭くえぐっているんですね。すでにご覧になった方も多いかと思いますが、『ヒンディー・ミディアム』の見どころを簡単にご紹介しておきましょう。まずはデータからどうぞ。

 

『ヒンディー・ミディアム』 公式サイト
 2017年/インド/ヒンディー語/132分/原題:Hindi Medium
 監督:サケート・チョードリー
 出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル、ディーパク・ドブリヤル、ティロタマ・ショーム、アムリタ・シン
 配給:フィルムランド、カラーバード
※9月6日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー


映画の冒頭、父親と息子で営んでいるデリー下町の仕立屋が登場し、そこにハイティーンの娘を連れた女性が注文にやってきます。雑誌の写真を示して、「娘がこれと同じカミーズ(ドレス)をと言うんですよ。背中が開きすぎだと思うんだけど」と難色を示した母親でしたが、仕立屋の息子はその娘に「僕がその通りに作ってあげるから」と約束し、その約束を果たします。それが、ラージ・バトラ(イルファーン・カーン)と妻ミータ(サバー・カマル)の恋の始まりでした。それから10年ちょっと経ち、ラージはサリーやサルワール・カミーズなど伝統衣服を扱う店のオーナーとなり、かわいい娘ピアも生まれていました。夫婦の目下の悩みは、このピアの教育問題で、5歳で間もなく小学生となるピアを何とか名門の学校に入れようと、特にミータの方が熱くなっていました。ところが、夫婦は二人ともヒンディー・ミディアム、つまりヒンディー語で教育する学校の卒業生で、特にラージは英語もそれほどできません。名門校はすべてイングリッシュ・ミディアムのため、どうやればそういった学校にピアを合格させられるのか、見当もつかずに右往左往するばかり。お受験には、親の資産や教養も問題になるのです。


彼らが本命にしている学校は、学校から住居が近くないといけない、というので、自宅も下町からニューデリーの高級住宅地ワサント・ヴィハールに引っ越します。そしてブランド品で身を固めてみたものの、父兄面接に自信がないため、ついにはお受験コンサルタント(ティロタマ・ショーム)を頼ることに。そこで指導された通りに準備して受験したのですが、受けた学校は軒並み不合格でした。窮地に陥ったラージとミータに、コンサルタントは最後の手段を教えます。それは、低所得者層の優先枠を設けている有名校に、低所得者として受験する、というものでした。もうそれしかない、と思い込んだ二人は、低所得者層の暮らす町に引っ越し、貧困家庭のふりをして暮らし始めます。学校からの実態調査もうまく切り抜け、ボロが出そうになりながらもなんとか貧乏暮らしを続ける一家でしたが、周囲の人々は夫妻に親切で、中でも人のいい隣人シャーム・プラカーシュ(ディーパク・ドブリヤル)は、同じ年の息子がいることもあって何かとラージを助けてくれるのでした。そんな中、やり手の女性校長(アムリタ・シン)の学校で、受験結果の発表が行われますが...。

インドの「お受験」というか試験でいい成績を取る欲求のすさまじさは、親が試験中の子供たちにあの手この手で解答を届けようとするとんでもない映像が日本でも報道されたりして、一時期話題になりました。これは小学校入試ではなくて、もっと上の学年の試験時のようですが、年上の人間が窓からカンペを差し入れたり、回答を教えたりする風景がこちらの記事にも出ています。こうなるそもそものスタートが、小学校受験というわけです。日本でも、小学校、あるいはその前の幼稚園受験が話題になったりしますので、観客の皆さんも『ヒンディー・ミディアム』の受験戦争を理解しやすいかと思いますが、それにしても所得を改ざんし、実際の住居まで移して、貧乏人になりすますとは、と驚かれた方も多いと思います。


本作の一番の見どころも、この「金持ち父さん」が「貧乏父さん」になるパートで、大いに笑わせてくれながら、どこか胸が痛む気持ちを味わうことができます。付け焼き刃の貧乏人なので、満員バスに乗り込むテクがわからなかったり(デリーのバスは超満員のことが多く、特に薄緑色のバスが走っていた時代は、乗降口に乗客がぶら下がるような感じで走るバスが多かったのです。やっと乗れたら今度はギュー詰めのバスから降りられなかったりと、日本の満員電車以上にテクニックと慣れがないと乗りこなせません。今は日本並みのきれいな車体で、自動扉のバスが増えたため、いくらか緩和されたと思いますが)、お金がないことになっているためATMにお金を下ろしにいくのも大変だったり、せっかくシャーム・プラカーシュが仕事を紹介してくれたビスケット工場でも、働く要領がわかってなくて失敗ばかりしたりと、芸の細かい脚本で見応え十分です。


最後も上手にまとめてあり、脚本も担当したサケート・チョードリー監督の腕は確か。これまでの監督作2本、『Pyar Ke Side Effects(恋の副作用)』(2006)と『結婚の裏側(Shaadi Ke Side Effects)』(2014)はあまり話題にならなかったのですが、本作で一挙にブレイクしました。ただ、残念なことに、ヒットした本作の続編として作られる『Angrezi Medium(英語ミディアム)』(2020公開予定)は監督が交代し、『カクテル(Cocktail)』(2012)や『ファニーを探して』(2014)のホーミー・アドジャーニヤー監督になってしまいました。だいぶ作風が変わるかも知れませんね。主演は同じイルファーン・カーンで、病気からの復帰後第1作になるものと思われます。相手役としては、カルト的作品として欧米で大いに話題になった『Mard Ko Dard Nahi Hota(男には痛みなどないものだ)』(2018)のヒロイン役、ラーディカー・マダンと、カリーナー・カプールが登場することになっています。

ヒンディー・ミディアム 特別映像

『ヒンディー・ミディアム』、まだご覧になっていない方は、上の予告編を確認して劇場へGO! かわいいピンク色のパンフも読み応えがあり、特に高倉嘉男さんの「『ヒンディー・ミディアム』とインドのお受験事情」は必読です。パンフをお供に、イルファーン・カーン(まれなガンの治療のためロンドンに長期滞在していたのですが、手術が無事成功し、つい先週9月13日に帰国したそうです。よかったですぅ~)の名演技をたっぷりとお楽しみくださいね。



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2 コメント

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Unknown (naoki)
2019-09-15 21:41:36
本日梅田でヒンディーミディアム鑑賞してきました。
スカイビルの下ではメキシコフェスタ真っ最中,不思議な空気(笑)

作品自体は,まあまあでした。もっと感情を揺さぶってくれてもいいのになあと。ピアさんの気持ちがほとんど出てきませんでしたね。

ちょこちょこ気になったのがpkで警官役だったかものビスケット工場のひと,バジュランギのパキスタンの最後は善人の刑事さんだったかものひとも出てはった気がします。

それにしてもあのパキスタン人女優さん,美人でした!今後他の作品も調べてみます。

あとアメリカみたいに要職についている方の役の割合とか法律で決まっているのでしょうか?女性の地位とか。

名門小学校の校長はサリーの女性,シークレットスーパースターの敏腕弁護士もサリーの女性ですし。本作も奥さんは高学歴のようでしたし。

でも,学歴なくて成功したひとや,奥さんがコンプレックス抱くとか,万国共通なんですねえ。

最後の演説もちょい迫力不足かなあ。涙があふれてくることはなかったです。奥さんだけがほめてくれるところはホロッとしましたが。

そうそう,まもなく公開のガリーボーイのガリーが何度も作品中に聞こえました!ああいった街がガリーなんですね。

またいい作品を紹介してくださいね,先生。

あ,ほぼ満席でした!ヒットしてます!
naoki様 (cinetama)
2019-09-16 23:14:15
コメントの御礼が遅くなってすみません。
『ヒンディー・ミディアム』の上映レポートもありがとうございました。
ほぼ満席とのこと、よかったです。

naokiさんは英語の先生でいらっしゃるので、やっぱりお耳がいいですね。
そうなんです、「路地」「小路」「裏通り」といったような小さな通りを「ガリー」と呼ぶのですが、『ガリーボーイ』の中のラップ曲では「ガリー・ガリー・ガリー・メーン」という歌詞があって、「ガリガリガリ・メン」と聞こえ、つい「ガリガリ君」とかを連想してしまいます。
ヒンディー語は日本語の音と似ているので、覚えやすいですね。

それと、脇役の人の顔が定着するようになれば、かなりディープなインド映画ファンと言うことができます。
英語版Wikiで映画を検索すると、端役まで名前が出ていますので、それでぜひ名前も覚えてください。

奥さん役のパキスタン人女優サバー・カマルは、インド映画への出演は確かこれ1本だけだと思います。
この映画が作られた直後に印パ間を緊張させる軍事テロ事件が起こり、インドに反パキスタン感情が渦巻いたため、「パキスタン人のキャスト&スタッフはボリウッド映画では使わない」という業界の申し合わせができてしまったんですね。
というわけで、彼女の出演作を見るには、パキスタンの映画かTVドラマを探すしかないようです。

では、この先の作品もどうぞ楽しみにしていてくださいね。
『ガリーボーイ』『ロボット2.0』『盲目のメロディー』...に、まだまだ来る予定です。

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