アジア映画巡礼

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8月に見る映画『英国総督 最後の家』

2018-07-30 | インド映画

8月のアジア各国では、いろんな記念日が待ち受けています。日本でも、8月6日は広島、9日は長崎の原爆忌に始まり、15日の終戦記念日がやってきますね。この8月15日は、アジアの多くの国で日本軍の侵略から解放された日として、記念日になっている所もあります。それが1945年のことで、その2年後、1947年の8月15日に、インドはイギリスから独立しました。その前日、8月14日にはパキスタンが1日先んじて独立を果たしており、この100m競争胸の差みたいな両国の独立劇にも、そこに至るドラマがあったことは皆様ご承知の通りです。もっと詳しく知りたい方は、ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ著「今夜、自由を(上・下)」(原題:Freedom at Midnight)を読んでみて下さいね。

で、う~ん、本を読むのはかったるい、という方にオススメなのはこの映画、『英国総督 最後の家』です。イギリス製作の映画なのですが、監督はグリンダ・チャーダ(正しくはグリンダル・チャッダー)というケニヤ生まれのインド系の女性。インドをイギリスから独立させる使命をおびて、最後のインド総督として赴任したマウントバッテン卿とその妻エドウィナを主人公に、総督邸を舞台に起こる数々のドラマをわかりやすく描いています。まずは基本データからどうぞ。

© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

(以下、画像の©表示が長いため、省略させていただきます。すべて、上に同じです)

『英国総督 最後の家』 公式サイト
2017年/イギリス/英語・パンジャービー語・ヒンディー語/106分/原題:Viceroy's House
 監督:グリンダ・チャーダ
 出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニーシュ・ダヤール、フマー・クレイシー、オーム・プリー
 配給:キノフィルムズ
8月11日(土・祝)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

1947年2月20日、マウントバッテン(ヒュー・ボネヴィル)は大英帝国インドの最後の総督に任命されます。最後の総督の使命は、インドを1948年6月30日より前に独立させること。夫人のエドウィナ(ジリアン・アンダーソン)と共にこの困難な使命に立ち向かおうとしたマウントバッテンでしたが、彼が赴任したデリーの官邸は使用人だけでも数百人。彼らを統括するのはイギリス人のエワート(デヴィッド・ヘイマン)とインド人のグプタ・ジー(ダルシャン・ジャリーワーラー)で、その下にはマウントバッテンに直接仕える使用人となったジート(マニーシュ・ダヤール)や、夫人に仕えるアーリア(フマー・クレイシー)らもいました。


赴任したマウントバッテンは、次々とインド政治の中心となっている人物たちと会見していきます。ケンブリッジ出身で独立後の首相と目されている国民会議派のジャワーハルラール・ネルー(タンヴィール・ガニー)、イスラーム教徒の権利を主張するムスリム連盟のムハンマド・アリー・ジンナー(デンジル・スミス)、そして彼らよりも国民に影響力のあるマハートマー・ガーンディー(ニーラジ・カビ)。さらにはイギリス政府の意を受けた弁護士や参謀長などなど、多くの人物の思惑が交錯します。そしてまた、使用人たちの間では、ジートとアーリアの恋が密かに進行していたのでした...。


ジートとアーリアの関係は、いわばインド・パキスタン分離独立のあわせ鏡のような形で進行していきます。ジートはヒンドゥー教徒、アーリアはムスリム=イスラーム教徒なのです。ジートがラクナウの監獄に勤めていた時、アーリアの父(オーム・プリー)が独立運動をして逮捕され、面会に通っていたアーリアにジートが何かと便宜を図った、という過去が明かされて、アーリアを一途に愛したジートが彼女を追ってデリーにやって来たことがわかります。でも、アーリアの父はすでに彼女の婚約者をイスラーム教徒の中から選んでおり、どうあがいてもジートに勝ち目はありません。この恋がどのような結末を迎えるかが、インドとパキスタンに引き裂かれることになった大英帝国インドの運命と重なり合いながら、描かれていくのです。


このプロットの立て方は、確かにちょっととっつきにくい歴史&政治映画をわかりやすい存在にしてくれてはいますが、それだけにこの部分のストーリーが凡庸に流れてしまったことは否めません。この恋物語に比べて、マウントバッテン夫妻の決然たる行動はとてもチャーミングに描かれており、主演2人の名演もあって見応えがあります。彼らの行動は入念なリサーチがされており、歴史の瞬間を写した見覚えのある写真と同じシーンが出てくることもしばしば。インドとパキスタンを分離するための国境線を引く時のやり取りなどは、サスペンス風味も加わってとてもスリリングですし、インドのジョードプルでロケされたという重厚な建物の数々は、時代を十分に感じさせてくれます。

ただ、インド系監督の心情としては、インド庶民にも重きを置きたいと考えたのは仕方のないところで、前述のジートとアーリアの恋物語のほか、総督邸の使用人たちが直面する分離独立の悲劇も随所で描かれます。監督の親族もその争いに巻き込まれ、シク教徒である一家はケニアのナイロビに移住して、1960年に誕生したのが監督、というわけですが、その後監督が2歳の時に一家はロンドンに移住します。そして何本か作品を撮ったあと、2002年に『ベッカムに恋して』で大ブレイク、世界的に知られる監督となったのでした。この『ベッカムに恋して』の時に「グリンダ・チャーダ」という監督名表記が定着してしまい、もう直せない状態になっている、というわけなのですが、これは何とかならないものでしょうか。注意一秒怪我一生、ですので、配給会社の皆様、今後はこんなことがないよう、ぜひよろしくお願い致します。予告編はこちらです。

『英国総督 最後の家』通常予告映像 2018年8月11日(土・祝)全国公開

インド映画ファンとしては、『血の抗争1・2』(2012)などで光る演技を見せているフマー・クレイシーがじっくり見られるのが嬉しいところ。彼女の持ち味が十二分に生かされているキャラとは言いがたいですが、さすがにうまいです。相手のジート役マニーシュ・ダヤールはアメリカを中心に活躍しているインド系俳優で、両親はグジャラート州の出身とか。ほかに、昨年1月に急逝したオーム・プリー(亡くなったあとにもどんどん作品が公開されていて、一体どれが遺作と言うべきかわからないほど)、『ラガーン』(2001)などで知られるラージ・ズッチらも出演しています。また、先に名前を出したダルシャン・ジャリーワーラーは、『女神は二度微笑む』(2012)でヒロインの上司役を演じているなど、お馴染みの顔が脇を固めています。音楽はA.R.ラフマーン。今夏はぜひ『英国総督 最後の家』で、71年前のインド・パキスタン分離独立に思いを馳せて下さい。 

 

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