アジア映画巡礼

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「異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった~」のスゴい世界

2018-07-08 | 日常

初めて読みました、ライノベ。タイトルは「異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった~」で、著者はFafs F. Sashimiという、いかにもライノベ的な著者名の中でも異彩を放つ名前の人です。え、「ライノベ」がわからない? ひょっとして「ラノベ」派の方でしょうか。このどちらも「ライトノベル」の略称で、主として青少年向けに出ている、キラキラした表紙イラストに象徴されるキャラクター重視の小説です。まずは、「異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった~」の表紙を見ていただきましょう。


主人公は、ノート片手にペンを持ってうなっている八ヶ崎翠(やつがざき・せん)。異世界に転生したものの、周りの人が話す言語がまったくわからず、出会った人の助けを借りて徐々にその国の言語リバライン語を習得していきます。それを助けてくれるのが、彼の隣に描かれている白銀色の長髪の美少女シャリヤ。「ミ エス アレス シャリヤ、シャリヤスティ」というのが翠が初めて耳に捉えたリバライン語の文章で、そのあと文中では、リバライン語はその言語の固有文字で書き表されていきます。その文字は著者が作り上げたアルファベットらしく、一部キリル文字に似ていたりしますが、世界のどこにも存在しないような文字もたくさん混じっています。こうして、異世界で暮らして言語を習得していく翠の7日間が描かれるのですが、この異世界は対立する2勢力間の緊張状態が続いていて、翠もだんだんとその争いに巻き込まれていきます...。

ライノベ特有の表現も時々出現して、初体験の私などは面食らったりするものの、この「言語習得」の過程が実にスリリングで面白いのです。1日が終わる毎に、語学学習本の「この課のまとめ」みたいなものが出現し、翠になり切って言語学習すれば面白さも倍加するという仕掛けです。音声例がないのが残念ですが、リバライン語はローマ字のような音の並びと考えればいいようで、一部に付いているカタカナルビを参考にして、実際に声に出して学習することも可能です。そのリバライン語の文字が本書の帯についていますので、その画像も付けておきましょう。


リバライン語の右手に立つのが、ヒンゲンファール・ヴァラー・リーサという名前の図書館司書のお姉さんで、「ヒンヴァリー」と呼ばれることを好み、後半部分で重要な役割を果たします。とはいえ主人公は翠とシャリアのカップルと言ってよく、毎日最後に翠の「学習のまとめ」と共に、「Ex.1 sideシャリア」といったシャリア側から見たその日の記録も登場します。銃撃やら逃亡といった事件もいろいろ起こるのですが、何と言っても読ませるのは異世界言語習得の過程で繰り出される様々な翠のスキルです。さらに、翠自身の知識と、翠が地球で親しかった「インド先輩」というインドから関西に引っ越してきた人が傾けるうんちくとが随所で披瀝されていて、言語(学)好き、インド好き、アジア好きにはたまりません。言語マニアの方には、絶対に見逃せない1冊です。

実はこの本、著者から頂戴したのですが、なぜそんなことになったかと言うと、著者のお父様が私のインド研究者仲間なんですね。本書を読めば、「もしかして、あの先生??」という推察が働く方もインド映画ファンの中にはいらっしゃるかと思いますが、その息子さん、現在は関西の大学の学部学生なんです。この言語能力と知識力なら、大学院生か、もしかしたら言語学者のタマゴかしら、と思ってしまうほどなのですが、そう思うのは私だけではないようで、ご本人によると、「”本当に学部生なのか?”という言葉はよく色んなところで聞かされます」とのこと。こういうユニークな本のせいか、7月5日の発売以来早くも話題になっているようで、アマゾン沼での売り上げも好調とのことです。日本語の文章も達者で、時々ギャグもカマしてあってすらすらと楽しく読めます。ラストの部分がちょっと弱い感じもするものの、そう思うのは私がライノベのオキテを知らないからかも知れません。

この本を読みながら思い出したのは、前回の芥川賞受賞作である石井遊佳の「百年泥」。チェンナイつながりからの連想かも知れませんが、同じく言語に関連する内容ということでも頭の隅でチラチラしました。Fafs F. Sashimiの「異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった~」はあれほど饒舌ではありませんが、やがて豊かな言語世界を切り開いてくれる芽を内包している気がします。新しい小説誕生の瞬間を目にするためにも、ぜひ読んでみて下さいね。

<追記>おお、すでにウィキの記事まである! すごい人気なんですね。

 

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