アジア映画巡礼

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シンガポールのインド映画(3)

2016-08-21 | インド映画

今回は、タミル語映画のお話です。


シンガポールでタミル語映画をコンスタントに上映している劇場は、何と言ってもリトル・インディア駅からすぐのレックス・シアター。ネットで先週調べてみると、私が見に行った日はラジニカーント主演の『Kabali(カバーリ)』のほか、『Joker(ジョーカー)』、ヴィジャイ・セードゥパティ主演の『Darmadurai(ダルマドゥライ)』、それから『Nambiar(ナンビアル)』『Wagah(ワーガー)』という映画も上映しているはずでした。で、『ダルマドゥライ』は次の日のシティ・スクエアでのチケットを買っていたので、12時からの『ワーガー』を見ようとしたら「客が誰もいないので上映中止」と言われてしまいました。仕方なく、12時半から、私のほかに2人客がいたので何とか上映された『ジョーカー』を見ることに。それが終わって3時からの『ナンビアル』のチケットを買いに行ったら、またまた「誰もいないから上映中止」というお言葉が。ここは平日はこんな羽目になることが多く、休日の上映しか確実に実施されないようです。


『カバーリ』はまだまだ人気があるようで、夜の上映ですが続いているようです。ここでも、KLのコロシアム劇場と同じカットアウトが表に置いてあったほか、39.9シンガポールドル(約3,000円)でカバーリのフィギュアも窓口販売していました。もうちょっといい映画なら、記念に買ったんですけどねー。そんな次第で、結局この時に1本だけ見た『ジョーカー』は、なかなかの社会派作品でした。

Joker 2016 Tamil poster.jpg

主人公は、ひなびた農村に住むマンナン(グル・ソーマスンダラム)という男。自分のことを皆に「大統領」と呼ばせ、少しでも不正義があると乗り込んで行って正そうとする、ちょっと変わった中年男です。古ぼけたインド式ジャケットを着込み、お祭りの山車についている天蓋をつけたバイクに乗ってどこへでも出かけていくマンナンの仲間は、ジャーナリストの老人と若い女性の社会活動家。生真面目すぎるぐらい生真面目に山羊の”ウサイン・ボルト”がケガをさせられたことに怒るこの男は、警察やお役所からは目の敵にされていましたが、マンナンがこうなったのには悲しい過去があったからでした。


マンナンはある時マッリ(ラームヤ・パンディアン)という娘に恋してしまい、やっとのことで結婚にまでこぎ着けます。マッリは家にトイレがあることを望んでいましたが、ちょうどその頃、「インド中の家にトイレを」という政府のキャンペーンが始まり、便器が各家に支給されることになりました。その便器だけは庭に据え付けられたのですが、周りを囲う壁を作る費用がなかったマンナンの家では、ずっとそのままになっていました。ところが、大統領がキャンペーンの現場視察としてこの村にやってくることになり、見学家庭としてマンナンの家が選ばれます。急に決まったこの視察のために、お役所はあわててマンナンの家のトイレに煉瓦で急ごしらえの囲いを作ります。ところが、土壇場になって視察場所は別の家に変更になり、マンナンの家の囲いは途中まででやりっぱなしに。そして、視察がある前夜、雨の中トイレに行った身重のマッリはバランスを崩し、囲いに手を掛けたとたん囲いの煉瓦が崩れてその下敷きになってしまいます。朝になってそれを見つけたマンナンは、近所の人に知らせて救急車を呼ぼうとしますが、大統領の警備のため村にやってきていた警察は「大統領が来て、お帰りになるまではダメだ」とマンナンを家に閉じ込めてしまいます。こうして、マッリが病院に運ばれた時にはすでに手遅れで、胎内の子は死亡、マッリも植物人間になってしまったのです...。

Joker

まさにジョーカーのように奇矯なふるまいをするマンナンの姿をたっぷり見せてから、お話は過去に遡るのですが、最初のパートで、朝出かけるマンナンが花に水をやり、誰かに今日の予定を話しかける、という儀式めいたことをするシーンが登場します。それがあとになって謎が解けると、何とも切なく思い出されるのです。過去のシーンでのマンナンとマッリの恋は初々しく、見ていて口元がほころんでしまいます。しかしながら”プレジデント”と呼ばれるマンナンにはあまり感情移入ができず、また最後も悲劇で終わるという、あまり大衆受けする作品ではないものの、見る人の心に一石を投じてくれる作品ではありました。現在、モーディー政権が「(野原とかでやるのではなく)トイレを利用しよう」というキャンペーンを行っていることは日本のマスコミでも報道されたりしていますが、それに対する批判とも言え、映画に登場するトイレ設置に関するお役所の愚かな対応の数々は多分実際に取材して出て来たエピソードなのだろうと思います。名作とは言えませんが、インド社会史の一側面を描いた作品として、のちのち貴重な作品になる予感がします。予告編はこちらです。

Joker - Official Trailer | Guru Somasundaram, Ramya Pandiyan | Raju Murugan | Sean Roldan

(続く)


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2 コメント

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社会派インド映画 (Jaan)
2016-08-28 20:18:35
cinetamaさん、こんにちは。

インドのトイレ問題を題材にした「ジョーカー」観てみたいですね~。
唄って踊ってのインド映画もいいけど、昨年、東京外国語大学で観た「シャモルおじさん灯りを消す」を観てから、社会派インド映画もいいな~と思いました。

シャモルおじさんでもそうでしたが、話をまともに聞いてくれなかったり、たらいまわしにされたりと、なかなかアクションを起こしてくれないお役所。

自分自身、映画をとおしてインドの現状や文化を知り、いろいろ考えさせられたので、また東京外国語大学で、この映画をやってくれないかな?と思っています。


Jaan様 (cinetama)
2016-08-29 00:19:07
いつもコメントありがとうございます。

『ジョーカー』のような作品、ほんとにどこかでやれるといいですね。
TUFSシネマはもう決まってしまったようで残念ですが、さて、あまりTIFFやフィルメックスといった映画祭向きでもないし、どうしたものか。
少し考えてみます。

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