アジア映画巡礼

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『僕はジダン』とパールシーの世界

2011-07-23 | インド映画

今度アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映されるインド映画『僕はジダン』 (2007)は、パールシー(ゾロアスター教徒)・コミュニティの物語です。作品に関しては、こちらのサイトをどうぞ。

パールシーというのはインドでのゾロアスター教徒の呼び名で、ペルシア(現イラン)へのイスラーム教徒の進入により、8世紀にインドへと移住してきた人たちがルーツです。イランの中南部はファールス地方と呼ばれ、それ故にペルシア語は「ザバーン(言語、舌)=エ(of)=ファールシー」というのですが、このファールシーがパールシーになったものと思われます。

故国を逃れた彼らは、イランに近いインド西部のグジャラート州ディーウ島に一時滞在、その後さらに東方の海岸へと移動し、ボンベイ(現ムンバイ)の少し北にあるサンジャーを始めとする小さな港町に上陸しました。『僕はジダン』に登場するウドワーダーという港町はその近くにあり、早い時期にパールシーが住みついた場所の一つです。当時のインドの王侯は、インドの言語を話すこと、女性はインドの服装をすること等いくつかの条件付きで滞在を許可し、やがてパールシーの人々はボンベイを中心とするマハーラーシュトラ州とグジャラート州に住みつき、今日に到っています。

私が初めてパールシーを意識したのは、1970年代末に買ったこの本でした。

 

Firoze Rangoonwalla "A Pictorial History of Indian Cinema" Hamlyn, 1976.

当時としては珍しくヴィジュアルがきれいな本で、インド映画史の記述がコンパクトにまとめてあるのに加え、スチール写真が豊富に使われていたので、初心者にとってはすごくありがたい本でした。この本の著者の名前が「フィーローズ・ラングーンワーラー」だったため、その姓に興味を持ち、パールシーであることを知ったのです。

「ラングーンワーラー」の「ラングーン」は、ビルマ(現ミャンマー)のかつての首都の名で、今は「ヤンゴン」と表記されるのが一般的です。「ワーラー」の方は「~の人」「~する人」という意味で、インド好きの人なら、「リキシャーワーラー」(人力車夫、または三輪タクシーの運転手)や「チャーイワーラー」(お茶屋さん、あるいはその店の従業員)などをすぐ思い出すことでしょう。「ラングーンワーラー」は、「ラングーンの人、ラングーン出身の人」という意味になります。

この「ワーラー」の付く名前が、パールシーに特徴的な名前の一つです。『僕はジダン』の監督はスーニー・ターラープルワーラーですが、彼女の姓もその一つ。「ターラープルの人、ターラープル出身の人」という意味で、ムンバイの少し北にターラープルという地名があるため、そこが名前の元になったのでは、と思われます。(ただ、「ターラーポールワーラー」という名前の人も見たことがあるため、もしかしたらこちらかも。映画祭向けに人名表記を担当したのは私なのですが、スーニー・ターラープルワーラーの場合ヒンディー語文字での確認ができなかったため、「間違っていたらごめんなさい!」です)

スーニー・ターラープルワーラーは、ミーラー・ナイール作品『サラーム・ボンベイ!』 (1988)等の脚本家で、『僕はジダン』で監督としてデビューしました。1989年の東京国際映画祭カネボウ国際女性映画週間で『サラーム・ボンベイ!』が上映された折、来日した彼女を撮った写真がありましたので付けておきます。

『僕はジダン』の役名では、「プレスワーラー」という姓が出てきます。パールシー・コミュニティ向けの新聞社を経営し、自ら編集長も務めるボーマン・プレスワーラーという人物ですが、「プレスワーラー」は「新聞社の人、出版の人、マスコミの人」というような意味になり、名前と仕事が一致しています。前述した「地名+ワーラー」というパターンだけでなく、「職業+ワーラー」もパールシーの姓ではよくあり、「ダールー(酒)ワーラー」や「ソーダワーラー」という姓もあるそうです。

あと、「~ジー」が付く名前も、パールシーに特徴的な名前と言ってもいいかも知れません。これは姓にも名にも使われ、有名な鉄鋼王ターター財閥の創始者は、「ジャームシェートジー・ヌッセールワーンジー・ターター」と言います。「ジー」はヒンディー語では「~さん」という敬称なのですが、それを付けて名や姓にしてしまうという、ちょっと奇抜なネーミングです。『僕はジダン』の役名では、「クダーイージー」という姓が出てくるのですが、「クダーイー」とは「クダー(神)」からの派生語で、「神性、神格」というような意味です。クダーイージーは主人公の”ちびジダン”少年の父で、宗教的指導者としてヒーリングを行ったりしているという設定のため、これもピッタリの名前です。

このほか、一目でパールシー教徒とわかる名前に「イーラーニー」があります。そのものズバリ、「イランの人」というわけです。1931年にインド映画のトーキー第1作を作ったのはアールデーシール・イーラーニーで、彼はその後イラン映画のトーキー第1号も誕生させました。『僕はジダン』では出演者にこの姓の人がいます。ボーマン・イーラーニーです。下は、『DON 過去を消された男』 (2006)でデシルバ警部を演じた時の彼です。

彼はこのほか、『3バカに乾杯!』 (2009)の学長などでもお馴染みですが、『僕はジダン』ではボーマン・プレスワーラーを演じています。

ここに挙げた人のほか、よく名前が知られているパールシーでは、指揮者のズービン・メーヘター、作家のロヒントン・ミストリーらがいます。『僕はジダン』でちらりと垣間見られるパールシーの世界。ぜひ覗いてみて下さいね。

 

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