アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

A.R.ラフマーン、日本を魅了する(上)

2016-09-17 | インド映画

16日の福岡アジア文化賞の授賞式に続いて、17日は市民フォーラム「From the Heart~A.R.ラフマーンの音楽世界」が開催されました。「From the Heart」というタイトルは、A.R.ラフマーンが作曲を担当したマニラトナム監督作品『Dil Se~心から』(1998)と関連づけたもののようです。会場になったのは、地下鉄天神駅から直結するアクロス福岡。16日の授賞式もアクロス福岡の大きなホール、シンフォニーホールであり、ラフマーンは福岡の高校生オーケストラと共演して大いに盛り上がったそうなのですが、私は残念ながら17日の昼に羽田から福岡へ飛んだため、前日の授賞式も、そして17日朝アジアフォーカス・福岡国際映画祭で特別上映があったイラン映画のマジド・マジディ監督作品『予言者ムハンマド』も、どちらにも参加することができませんでした。そんなわけで、17日夕方の市民フォーラムはよけいに期待が高まります。


ホテルに荷物を置くのももどかしく会場に駆けつけると、1時間前の開場時間にはすでに長蛇の列。その最後尾に並ぼうとしていたら、グレゴリ青山さんが私を見つけて下さり、久々の感激の再会に。そして、福岡市のアジア映画賞担当者の方が来て下さって、関係者用のチケットを下さいました。ラフマーン作曲の映画の字幕を担当(『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)、『ラガーン』(2001)、『OK Darling』(2015)など)したり、福岡市総合図書館が『ロージャー』(1992)を収蔵する時のお手伝いをしたりした関係で、コーディネーターの方が関係者席に呼んで下さったのです。グレゴリ青山さんもそうで、グレゴリさんのそばには何と「ゴンチチ」のチチ松村さんが! 以前からインド映画好きとして有名な方で、ナイショですが(と言いつつ暴露)昨年出した「インド映画完全ガイド」のオビの推薦文をお願いしようか、とその時は一面識もないのに考えたほど。

チチさんは特にラフマーンの音楽に心酔しておられて、曲を聴いてはコードを書き取り、歌詞もカタカナ書きして憶えて歌っておられるそうです。その手書きの楽譜を見せていただいたのですが、これがすごい! 有名な『ロージャー』の「チンナ・チンナ・アーサイ(小さな望み)」はじめ、『デリー6』(2009)、『Swades(祖国)』(2004)など、タミル語映画、ヒンディー語映画の曲が20曲近く収録されています。詳しくはこちらにチチさんご自身による紹介がありますが、以前シンガポールのコンサートでラフマーンにお会いになったことのあるチチさんが昨日ラフマーンにこれを見せたら、彼もビックリしたらしく、たちまち自分のFBにアップ。「A Japanese musician's transcription of Lingaa song(『Lingaa』の歌を日本のミュージシャンが転記)」との彼自身のコメントがついています。ラフマーンの写真の方がきれいですが、私もチチさんの楽譜の写真を撮らせていただきました。


そうこうしているうちに、15分遅れでフォーラム開始。まず、アジア映画ではお馴染みの石坂健治さんが登場し、ご自身の言によると「前座」をつとめて下さいます。


その前に司会者が「今回のA.R.ラフマーン氏のフォーラムには、福岡県外はもちろん、海外からもお申し込みが寄せられました」と紹介していたのですが、石坂さんが「福岡県内の方は?」「県外からいらした方は?」とそれぞれに拍手を求めると、ほぼ半々という状況に。「27回を迎える福岡アジア文化賞では、過去に黒澤明監督、香港の許鞍華(アン・ホイ)監督、フィリピンのキドラット・タヒミック監督、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督ら、アジアの映画監督が何人か受賞しています。また、音楽家の受賞も多いのですが、映画音楽の作曲家としてはA.R.ラフマーンが初めてです。世界中の約7,000人の個人と団体から推薦を受け、それを選考委員が絞り込み、審査委員が決定するわけですが、今回のラフマーンの大賞受賞は、文句なしの受賞でした。今やラフマーンは全世界的に活躍しているほか、洪水被害支援コンサートを開くなど、社会活動にも貢献しています。そういった点も評価されました」


的を射たご紹介はまだまだ続きます。「福岡は、アジア映画紹介では先進的な所です。ラフマーンが作曲を担当したマニラトナム監督作品の『ボンベイ』(1995)も『ロージャー』も、日本では福岡で初めて上映されました。この2本は福岡市総合図書館がプリントを収蔵していて、明後日には記念上映会が開催されるなど、ラフマーンが受賞、となるとパッと対応できるのも福岡の強みです」との紹介に続き、『ムトゥ 踊るマハラジャ』の「オルワン・オルワン(主人はただ1人)」の歌のシーンと、ダニー・ボイル監督によるイギリス映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)の予告編が写し出されました。ラフマーンご本人の登場まで、いやが上にも期待を高めてくれるご紹介でした。


そして、いよいよ第1部、音楽評論家のサラーム海上さんが聞き手となって、ラフマーン自身がいろいろ語ってくれるパートが始まります。さすがのサラームさんも、ご自分の大好きなラフマーンとの対談とあってか、いささか緊張気味。そしてそして、A.R.ラフマーン、登場です!!


本当に物静かな感じの人で、かといってお高くとまっているわけでもなく、気むずかしい印象を与えるわけでもなく、静かに控えている、という雰囲気が好ましいです。


サラームさんとの対談は、サラームさんが周到な準備をしてきていて、ラフマーンの音楽的歩みを辿りながらお話を聞いていく、という構成になっていました。


まず、「彼は若く見えるけど、僕と同じ年、1967年生まれで49歳なんですよね」とサラームさんが笑わせてくれます。この日は逐次通訳ではなく同時通訳で行われ、会場の聴衆も舞台のお二人も、同時通訳を聞くイヤホーンを付けて話を聞くことになりました。ラフマーンが手にしているのが、その同時通訳の音声受信機です。逐次通訳よりは時間がかからなかったのですが、やはり翻訳タイムラグがあって、ラフマーンが答えるまでに少し間が空いたりしました(ラフマーンの耳に見えるのが、イヤホーン)。実は私、ラフマーンの生声を聞いていたくてイヤホーンを借りなかったのですが、マイクから口を離して話す彼の声があまりよく聞こえず、ちょっと失敗してしまいました。そんなわけで、ラフマーンのトーク内容は、簡単かつ少々あやふやです。すみません~。


サラームさんは1997年にインドに行った時に、インド独立50周年記念のラフマーンのアルバム「バンデー・マータラム(母なるインド万歳)」の曲「マー・トゥジェー・サラーム(母なる大地に捧ぐ)」を聞いて衝撃を受け、すぐにアルバムを買って以来のファンだそうで、まずそのPVが流されました。「その後、作曲された映画音楽も聴いたのですが、それまでの映画音楽と違う、アレンジも違っていて、新しいメロディーを作ろうとしているな、と感じました。ご自身では、最初の頃の自分の音楽とそれまでのインドの映画音楽の違いをどう感じていましたか?」とサラームさん。


それに答えてラフマーンは「どうもありがとう。当時インドでも、若いミュージシャンたちはローリング・ストーンズやビートルズ、マイケル・ジャクソンなどを好んで演奏していました。リズム主体の洋楽ですね。僕はそれまでの映画音楽と、そういった新しい音楽とをミックスさせて作れる位置にいた。だから、インド映画音楽というところに焦点をあてながら、過去のCF曲のアイディアを取り込んだりして試行を重ね、自分たちの世代にとって親しめる音楽を作ることを心がけました」と答えてくれます。


サラームさんはラフマーンの代表作品のリストを示し、年代順に彼の活躍を追っていきます。「1998年に『Dil Se 心から』をインドで見た時にはびっくりしました」と、その中の「チャイヤ・チャイヤ(影の中へ)」の映像が流されます。「ああ、停めるところがみつからないですね~(笑)。ご本人を前に何ですが、どの曲もはずれがない(笑)。この映画は、テロリストである女性と、裕福な家の娘という二人のヒロインが登場するのですが、それぞれのヒロインのソング&ダンス・シーンで、前者が荒涼たる北部のチベット文化圏で踊るところではスーフィーの音楽、後者が南インドのケーララで踊るところではマラヤーラム語のポリフォニーと、二人の心の内を音楽で描ききる、ということがなされています。どうやったらこういうことができるのですか?」


「この映画はマニラトナム監督作品ですが、ラブストーリーとしての音楽を要求されました。いくつか曲想を得ていて、メロディーも浮かんでいたので、映画を見てから音楽がストーリーを語るようなものを作っていきました。それが、マニラトナム監督の要求だったんです」と答えるラフマーン。

さらに、この日の朝アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された『預言者ムハンマド』のことなどにも触れながら、ラフマーンの足跡を辿るサラームさんの解説は続きます。今回は映像がいくつか流されたのですが、それらはすべて権利元であるインド側の製作者や監督の許可を取ったものだそうです。「ラフマーンさんのイベントで流す、といったらどの監督さんも権利元も即OKで、有名な某カーンさんもすぐに許可を下さいました(笑)。2002年には舞台劇の『ボンベイ・ドリームス』の作曲もしていますが、この舞台が去年日本でも上演されたのはご存じですか?」有名な某カーンさん、とは、『ラガーン』の製作者だったアーミル・カーンのことですね。


「ああ、うん、知っています」(笑)ということで次へ。「ラフマーンさんの曲には、とてもインドらしい曲がいっぱいありますが、特にスーフィー音楽をもとにしたカッワーリーの曲も多いですね。カッワーリーはあなたにとってどんな音楽ですか?」


「カッワーリーは、そうですね、信仰の音楽と言うか、スーフィーの聖者に捧げる音楽ですね。聖者のための歌ですが、全世界的なメッセージが込められている、特別な音楽です。インドでは、ヒンドゥー教徒にもイスラーム教徒にもアピールする音楽です」という答えに、サラームさんが『デリー6』の曲「アルズィヤーン」をかけます。曲に合わせて、ラフマーンも少しフンフンと歌っている感じでした。さらにサラームさんは、ラフマーンが尊敬しているというパキスタンのカッワーリー奏者ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンもかつて福岡アジア文化賞を受賞したことを話しましたが、ラフマーンもそれはとっくにご承知だったようです。「その、ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンさんが受賞してから約20年経って、あなたが受賞したことで何か感じることはありますか?

「インド音楽の世界への紹介は、まず、ラヴィ・シャンカル氏から始まったのではと思います。日本でもそうでしょう? カッワーリーは、エネルギーと個性と信仰が融合したものと言えますね。僕だって、時にはすっかり参って、心が折れることがあります。そんな時にカッワーリーは元気をくれるのです。スーフィズムのパワーと言えばいいでしょうか、いろんなものが融合して溶け込んでいますからね」


続けてサラームさんが、海外での仕事で学んだこと、そしてタミル語映画の音楽をつける時と、ヒンディー語の音楽を付ける時とは、どうも違うのではないか、元々のホームグラウンドであるタミル語映画の方が、ワイルドで若者向けで、実験的なのではないか、と迫ります。海外での仕事については、まだ自分の仕事しては進行形であると答えたラフマーンですが、ヒンディー語映画とタミル語映画の違いについては、サラームさんが『OK Darling』(2015)の歌「メンタル・マナディル」をかけたあとこう答えました。「ヒンディー語映画音楽は小さくまとめるという感じですね。それに比べてタミル語映画の音楽はもっと広がりを持つというか、オーケストラ編成にしたりすることが多くなっています」というお返事でした。


サラームさんのラフマーンお仕事リストはまだまだ続き、2010年代の作品が紹介されます。そして、昨年の東京国際映画祭で上映されたドキュメンタリー映画『ジャイ・ホー~A.R.ラフマーンの音世界』の話にも。「あの中のラフマーンさんのピアノ・ソロがすごくステキだったんですが、ピアノ・ソロ・アルバムを出す予定はないんでしょうか?」というサラームさんの質問には、「そのアイディア、いただいておきましょう」(笑)というお返事が。実は2部では彼のピアノがたっぷり聞けたので、ラッキーでした。あと、ラフマーンがチェンナイに作っている音楽学校の話がでた時には、「アメリカからも生徒がたくさん来ている」とのことで、日本からもぜひ、という話になりました。


その後、申し込みに際して寄せられた質問のうち、二人の方の質問が取り上げられましたが、「仕事を離れると、どんな映画がお好きですか?」という質問には、「いろいろ見ますよ。時には、映画の音声を消して見たりします」というお返事が。「映画音楽を志したのは、南インドの素晴らしい監督、K.バーラチャンデル、K.ヴィシュワナート、マニラトナムらの作品を見ていたからです」と、日本でもお馴染みの大監督の名前も出ました。また、もう一つの質問、「他の音楽と違って、インド音楽が持っているパワーとは?」に対しては、「ラーガ(メロディー)かな。基礎となるラーガをマスターすればわかりますが、とてもユニークです」というお返事が。最後には、会場のインド人らしき人から「タミル語でちょっと話してみて」という愉快なリクエストも。会場の声を聞き取ろうとしていたラフマーンも、思わず苦笑いでした。こうして、第Ⅰ部は無事終了となりました。


「アリガトウ」という声を残して、ラフマーンはいったん姿を消します。(続く)





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4 コメント

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感激しました (玻璃)
2016-09-19 21:52:28
私も当日参加していたのですが、こちらを読んだ方がよくわかりました(笑)

早く並んだつもりだったのですが、みなさんはさらに早く、前の方の席はあっと言う間に埋まっていました。

アジア文化賞始まって以来、初?の満席です、というお話もありましたね。

私は周りにインド映画好きがいないので、「ラフマーンを見に行く」と言っても、その貴重さを誰も理解してくれません。

こんなに多くのインド映画ファンを見るのは初めてで驚くやら感激するやら。

余談ですが、会場にいたインド人カップル(たぶんごく普通の人です)がとんでもない美男美女だったので、インド恐るべし、と思いました。
玻璃様 (cinetama)
2016-09-19 23:09:25
コメント、ありがとうございました。

いらしてたんですね。
お目にかかれなくて残念ですが、おっしゃるとおり、福岡アジア文化賞での記録的入りだったそうです。
お申し込みの時点で、「もう満席ですから」と断られた方もいらしたようですよ。

私のラフマーン・トーク記録は虫食いだらけなので、もし補足して下さる箇所がありましたら大歓迎です。
とりあえずは、写真でご満足いただけたら、というところです。
良かったです! (カンスケ)
2016-09-22 16:21:02
私も、同じく受賞の日には福岡へ行けずでした;;
次の日に「ロージャー」を観ました。曲はもちろん知っていましたが、映画を観ることが出来て嬉しかったです。
こういう意味だったのねーと歌詞もきれいでした。

cinetamaさんのレポートにも感激です!聞き取れなかったところがあったので嬉しいですっ。
cinetamaさんにもお会い出来なかったのが残念。。。


カンスケ様 (cinetama)
2016-09-22 22:05:06
コメント、ありがとうございました。

『ロージャー』の上映にいらしたのですね。
福岡市総合図書館の方が、「ほぼ満員で、ありがたいです」と喜んでいらっしゃいました。

『ロージャー』は最初に見た時、おばあちゃんたちが歌い踊るシーンに度肝を抜かれました。
今考えれば、あれは「アイテム・ソング」だったのですよね。
どこかが買って、DVD化してくれないかしら、と思ってるんですが。
ラフマーン・ブームが起きて、実現しないかな~。

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