アジア映画巡礼

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『サンジュー』で知る、ラージクマール・ヒラーニー監督の映画作り

2018-08-11 | インド映画

今回バンコクでは、ある映画を2回見ました。『きっと、うまくいく』(2009)や『PK ピーケイ』(2014)のラージクマール・ヒラーニー(ヒラニ)監督の新作『Sanju(サンジュー)』です。インドでは6月29日に公開されて大ヒット、つい先日、今年の興行収入第1位だった『Padmaavat(パドマーワト)』を抜いてトップの座に躍り出たばかりです。以前、このブログでもちょっとご紹介したことがあるのですが、実在、かつ現役のボリウッド男優サンジャイ・ダット(59歳。下の写真はWikiより)の伝記映画です。

Sanjay Dutt on the sets of Torbaaz.png

サンジャイ・ダットの父スニール・ダットは1950~70年代の大スターで、その後国会議員、社会運動活動家としても足跡を残しています。母は、ある意味父よりも人気があった大女優のナルギスで、彼女ものちに国会議員に選ばれています。ナルギスは、日本でも映画祭等で上映されたラージ・カプール監督・主演作のうち、彼の監督デビュー作『火』(1948)や、世界的にも有名な作品『放浪者』(1951)、『詐欺師』(1955)等々、ラージ・カプール作品のミューズとして活躍しました。一時は実生活でも彼のミューズだったのですが、ラージ・カプールはすでに結婚して子供(カリシュマーやカリーナーの父ランディール・カプール、ランビールの父リシ・カプールら子だくさんだった)もいたため離婚することを拒み、ナルギスは彼をあきらめたと言われています。そして、彼女の代表作と言われている『Mother India(インドの母)』(1957)で共演したスニール・ダットに求婚され、1958年に結婚して、1959年にサンジャイ・ダットが誕生したのでした。『Mother India』撮影時の2人のエピソードは、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』で、ディーピカー・パードゥコーンとシャー・ルク・カーンが再現していましたし、まさしくレジェンドである両親から生まれたのがサンジュー、サンジャイ・ダットなのでした。(下のナルギス&スニール・ダットの写真はWikiより)

Nargis - Hindi Movie Actress (7).jpgSunil Dutt cropped face.jpg

映画『サンジュー』は、彼の伝記本を書き上げた年配のライター、トリパーティー(ピユーシュ・ミシュラー)が、ムンバイの海辺にある高級マンションに住むサンジャイ・ダット(ランビール・カプール)、愛称サンジューの所へ献本にやってくる場面から始まります。上機嫌だったサンジューですが、トリパーティーが「あなたとマハートマー・ガーンディーには共通点がある。それは…どちらも牢に入っていたことだ」などと、書いた本の中身がいいかげんだとわかる言葉を並べ始めると、サンジューは怒って彼を追い出してしまいます。その時、テレビからは、「サンジャイ・ダットは2006年にテロ防止法により6年の判決を受けました。今日、最高裁への上告が棄却され、収監命令が出ましたが、当局は彼が撮影中の映画を撮り終えるために、1か月の猶予を与えることにしました」というニュースが。ニュースは民衆の「奴はテロリストだ!」「殺してしまえ!」などという声も拾い、サンジューの幼い子供たちはおびえます。

ranbir kapoor sanju posters

サンジューはその夜、遺書を書いて自殺しようとしていました。飛び降りようとしたサンジューに、妻のマーニャター(ディヤー・ミルザー)は、「あなたが死んでもテロリストの汚名は消えないわ。ちゃんとしたライターに、あなたの真実の姿を書いてもらいましょうよ」と、ロンドンをベースにするライターのウィニー・ディアス(アヌシュカー・シャルマー)を推薦します。サンジューが直接会いに行き、「俺について書いている奴らは、俺に一度も会ったことのない奴らばかりなんだ。1か月の猶予期間のうちに、俺の話を聞いてくれ」と頼みます。最初は拒否したウィニーでしたが、サンジューの話を詳しく聞いてみることにし、再度会おうとしていたところ、それを聞きつけてズービン・ミストリー(ジム・サルブ)が彼女の前に姿を現しました。サンジューの友人だというズービンは、「やめとけ。あいつはすっごい女たらしでもあるんだ。奴に直接、何人の女と寝たか聞いてみろ。200人より下だったら、大嘘だ」と嫌みな口調でまくし立てます。ところが、サンジューの家に行ったウィニーが直接ただすと、「いつだったか、酔って数えて308人という数字が出た。でも、忘れている相手もいるから、350人かな」という実に正直な答えが。こうして、ウィニーはサンジューから、詳しい話を聞き始めたのでした...。

ranbir kapoor as sanjay dutt in Sanju

導入部だけでも詳しく書きたくなってしまうほど、巧みなストーリー展開の作品です。このあと、サンジューのデビュー作『Rocky(ロッキー)』(1981)撮影時のエピソードで、監督でもあった父スニール・ダット(パレーシュ・ラワル)の演出がいかに的確だったかなどが描かれるのですが、一方、その現場で知り合ったズービンに取り込まれ、クスリの世界に足を踏み入れてしまう情けない姿も描かれます。当時、サンジューには結婚したいと思っていたガールフレンドのルビー(ソーナム・カプール)がいて、その父(ボーマン・イラーニー)も彼の求婚を期待していたのですが、クスリのせいでその話は決裂します。ですが、その頃、親友カムリーことカムレーシュ(ヴィッキー・カウシャル)との出会いもあって、以後、カムリーが彼を支えていきます。ところが、その彼とも決定的な別れが。それは、新聞のある記事が原因でした...。

sanju starring ranbir kapoor will release on June 29

いくらでもストーリーが書けてしまうのは、印象的なエピソードや場面が積み重ねられているからです。その中に、マスコミに対する批判(「?」が大きな意味を持ちます)や政治家に対する皮肉(このシーン、実は現場で見学していたのでした)が盛り込まれ、サンジュー個人の物語が普遍化されていきます。普遍化、といえば、父や母ナルギス(マニーシャー・コイララ)の愛情も、親子の物語として胸に迫る内容になっていますし、カムリーとの友情は、その崩壊と再生も含めて、主人公がサンジューという有名人でなくても心を打たれます。実際のサンジャイ・ダットの人生からはだいぶ整理してあることがわかるのですが、それはサンジューを美化するためではなく、実在の人物を傷つけず、かつサンジューという人間をシビアに描くための構成だということが、見ている者にもよくわかる作品です。

ranbir kapoor in sanjay dutt biopic sanju

最初、ヒラーニー監督がサンジャイ・ダットの伝記映画を作る、と聞いた時には、「???」となったものでした。1日だけですが、撮影現場を見せてもらった時も、ランビール・カプールのそっくりさんぶりに驚きはしたものの、「これで映画になるのか???」というのが正直な感想でした。その後、キャストがわかり、パレーシュ・ラワルやマニーシャー・コイララがモデル人物に似せたメーキャップの写真が出ても、「そっくりさんショーをされてもなあ。インド映画をよく知っているインド人には受けるかもしないけれど...」と非常に懐疑的に見ていた私です。その一方で、あの、ラージクマール・ヒラーニー監督がそっくりさんショーという際物だけで映画を作るはずはないし、はて、どんな作品にするつもりなのだろう、と首をかしげてきました。その答えが...一度見ただけでは満足できない、何度も見たくなる深みを持った作品、というわけなのでした。予告編はまだ軽いジャブ、という感じですが、下に付けておきますので見てみて下さい。

Sanju | Official Trailer | Ranbir Kapoor | Rajkumar Hirani | Releasing on 29th June

ヒラーニー監督は無類のストーリー・テラーだと思いますが、その中に真実を落とし込むのが上手な人です。今回も、実在の人物たちの姿を借りながら、人の本質、親子の情愛とその限界、友情のもろさとそれが再構築されることのある不思議さ、そして、人は何を通して他人を見ているのか、という社会の仕組みなどに迫っていきます。演技面では、スニール・ダットを演じたパレーシュ・ラワルがものすごくチャーミングで、あの演技を見るためなら、3度目のおかわりだって平気です。日本での公開は「サンジャイ・ダットの知名度が低い」(実は私、2013年に一度だけちょろっとサンジャイ・ダットに会ったことがありまして、「俺の作品で、日本で公開されたのは何だ?」と聞かれた時、『ラ・ワン』しか答えられなかったのでした。『サージャン』はテレビ放映だけだし、あとDVDスルー作品が2、3あるものの、主演とは言えない作品で口ごもってしまい、案の定彼からは「フン」という顔をされました)という点から見ると難しいかも知れませんが、とんでもない生き方をした男の真実の物語、としてぜひ公開してほしいです。日活様、よろしくお願い致します!


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