シネマ見どころ

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羊と鋼の森(2018年日本)

2018年06月20日 | 映画の感想・批評


 「羊」の毛で作られたハンマーが、「鋼」の弦を叩く。ピアノの音が生まれる。
 生み出された音は、「森」の匂いがしたー。

 2016年、「火花」「君の膵臓を食べたい」などの話題作を抑えて第13回本や大賞を受賞した「羊と鋼の森」の映画化。
 映画が始まると、原作の世界がそのままスクリーンに広がっていき、命を吹き込まれた登場人物たちが原作の雰囲気を壊すことなく動き出していく。
 北海道の森に囲まれた家で育った外村は、これといった将来の夢を持っていなかった。放課後のある日、体育館にピアノの調律師・板鳥を案内したことで、彼の人生は変わっていく。板鳥が調律したピアノの音に、生まれ故郷と同じ森の匂いを感じ、調律の世界に魅せられたのだ。
 社会人としての人生が始まったばかりの外村は、調律の技術はもちろん、人とのコミュニケーションの取り方もぎこちない。だが、そんな彼を先輩の調律師たちは時には厳しく、時には優しく温かく指導してくれる。外村は先輩たちの仕事ぶりから学んだこと、教えてもらったことなど、大切だと思うことをいつもメモに取っている。彼は自分を不器用で調律師としての才能がないと思い悩んでいるが、決してそんなことはないと思う。初めて板鳥に出会った日、ピアノの音に森の匂いを感じる感性の持ち主だ。まだまだ未熟だが、伸び代をいっぱい持った青年だ。
 「どうやったら調律ってうまくなるんですか?」と問う外村に「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです」と板鳥は答える。また、大失敗をしてしまった時には「きっとここから始まるんですよ」とさりげなく励ましの言葉をかけてくれる。先輩の柳の「才能って言うのは、好きだっていう気持ちなんじゃないか」というのはいい言葉はだが、本当に好きなものに出会い、好きな気持ちをどこまでも持ち続けていくのはなかなか難しい。だからこそ余計に心にジーンとくる言葉でもある。
 自分の将来の進路を決めかねている若い人たちや、仕事に悩んでいる人たちには、ヒントになりそうなメッセージがいっぱい散りばめられている。新たに職場の同僚となり、社会人として一歩を歩み始めた青年の成長していく姿を見守り、後進をじっくりと育ててくれる先輩たち。そんな素敵な人間関係も丁寧に描かれている。
 原作では聴くことができないピアノ演奏もたっぷり堪能できる。さらに、ピアノの調律シーンでは繊細な作業だけでなく、鍵盤を引き出したり、肩でピアノを持ちあげたりする力仕事も見せてくれる。(久)

監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
原作:宮下奈都
撮影:山田康介
出演:山﨑賢人、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、堀内敬子、仲里依紗、城田優、森永悠希、佐野勇斗、光石研、吉行和子、三浦友和