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「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(2016年アメリカ映画)

2016年12月11日 | 映画の感想・批評
 財産はたっぷりとあるメリル・ストリープ演じるご老体の主人公は、音楽が大好きで大歌手になる夢を持ち続けているが、本人が気付いていないとんでもない音痴なのである。レッスンをするが、全く意味をなさない。周りの人間が四苦八苦しながら、悪口は絶対言わないという約束で、身内のミニコンサートを開催したり、自主制作レコードを出したり、何とか取り繕っていた。が、周りの者がちょっと目を離した隙に、本人が、勝手にあのカーネギーホールでの音楽会を申し込んでしまったのである。更に、軍の慰労者に招待券まで送ってしまったのである。さあ、当日はどうなることやら・・・。
 メリル・ストリープの旦那を演じるヒュー・グラントやピアノ伴奏者を演じるサイモン・ヘルボーグが、あの手この手で何とか当日を迎えるのだが、あまりの歌の下手さに、途中で退席する評論家や笑い出す観客が続出し、怒号が出て、初めて、心配そうな顔をする彼女。舞台袖で困惑する旦那。伴奏も続けることが出来ない。さあどうするか。その時である。一人の観客が叫ぶのである。「彼女は歌っているのよ!」そう、彼女は「心」で歌っていたのである。
 彼女は全く以って上手な歌手ではない。でも、自ら音楽を楽しみ、人を明るくさせ、人生を謳歌しようと信念があったのだ。何をどう訴えるのか、自分の人生をどう表現させるのかは、その人の「強い気持ち」で変わるもので、その方法の上手下手は関係ないと、改めて思わせてくれた。昨今、「勝ち組」「負け組」という表現が躍り、皆が「勝ち組」に入ろうとする。ただ、その線引きはどこにあるのだろうか。誰が決めるのだろうか。全編を通して、コメディタッチで描かれるがとても考えさせられる映画だった。
 この映画は実話をベースにしている。エンドロール時に、本人の歌声が流れるが、確かに、酷いものであった。ただ、この音楽会の録音は、カーネギーホールのアーカイブのナンバー1だそうだ。それは、「フローレンス・フォスター・ジェンキンス」という人物の気持ちが溢れている証拠だろう。
(kenya)

原題:「Florence Foster Jenkins」
監督:スティーヴン・フリアーズ
撮影:ダニー・コーエン
美術:アラン・マクドナルド
音楽:アレクサンドル・デスプラ
編集:ヴァレリオ・ボネッリ
衣裳:コンサラータ・ボイル
出演: メリル・ストリープ、ヒュー・グランド、サイモン・ヘルボーグ、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ他