沖縄平和市民連絡会が、5月9日、知事あてに提出した「海砂採取の規制を求める要請書」は下記のとおりです。
沖縄県知事 玉城デニー様 2025年5月9日
海砂採取の規制を求める要請書
沖縄平和市民連絡会
日々、沖縄の自然・生活環境改善を目指して県政運営に取り組んでおられることに敬意を表します。
辺野古新基地建設事業は、昨年12月末、大浦湾海底に敷砂が散布され、本年1月には地盤改良工事のための砂杭打設が始まりました。今後、同事業では、地盤改良工事(敷砂・砂杭)やA護岸・ケーソン護岸の中詰材等のために、約400万㎥もの大量の海砂が必要となります。沖縄の年間海砂採取量は、ここ数年、約80~140万㎥程度ですから、3年~5年分もの海砂が辺野古新基地建設事業のために使用されます。
海砂採取は、海底の泥を根こそぎポンプで吸い上げ、砂だけをふるい分けた後に、礫・泥等を高濃度の濁水とともに海に戻すという荒っぽい方法で行われるため、自然環境や水産資源、さらに海岸の浸食・砂流出等、深刻な影響を与えます。1月30日には、名護市安部区長が、「海砂利採取の中止の陳情書」を提出されましたが、そこでも、許可区域を無視した海岸近くでの採取や、早朝・夜間での作業による騒音被害、海岸の地形変化等が訴えられています。他の沖縄北部地域でも海岸部の砂の消失が大きな問題となっています。
今後、事業の本格化に伴い、海砂採取はさらに増大するため、早急な対策が必要です。
県は、海砂採取の総量規制について、「海砂利は建設用骨材等として必要不可欠。総量規制については慎重に検討していく」と繰り返していますが、大量の海砂採取は、逆に今後の建設用骨材等の需要にも支障となるおそれがあります。海砂採取の総量規制に踏み切ることが喫緊の課題となっています。海砂採取によるこれ以上の自然・生活環境の破壊を許さないために、下記のとおり要請します。
記
1.沖縄県土木建築部長は、本年2月14日、沖縄平和市民連絡会に対して、「現在、海砂採取の年間総量規制に係る調査を実施しており、既に総量規制を実施している他県の情報収集を行うとともに、海砂採取に伴う影響について、漁業協同組合等の関係者へヒヤリング等を行っている」と回答した。
しかし、県は2019年当時から、「総量規制については、他府県でもほとんど実施しているという状況を踏まえて、沖縄県としても早い目に作業を進めていきたい。現在、他府県の状況、採取禁止の背景、総量規制に至った状況を調べている」(2019.11.20 土建部回答)と答えていた。調査、検討期間は既に終えているはずである。
県が行った、「他県の年間総量規制に係る調査」、「漁業協同組合等の関係者へのヒヤリング」の概要、総量規制に向けた今後の方針を説明されたい。
2.県は、市民からの海砂採取の総量規制を求める要請に対して、「海砂利は、建設用骨材などとして必要不可欠」として、「慎重に検討していきたい」というにとどまっている。
しかし西日本各地では、多くの県が環境保護のために海砂採取を全面禁止しており、全面禁止に至っていないところも年間採取量の総量規制を行っている。現在、全面禁止・総量規制を行っていないのは沖縄県だけであり、早急に規制強化の必要がある。
他県では既に、建設用骨材は海砂に頼らず、石を砕いた砕砂・再生骨材等を使用することが主流となっている。沖縄県でも、砕砂等の利用が増えているが、今後、海砂の採取を制限し、砕砂等の使用に切り替えていくべきではないか。現在の砕砂等の使用実態、今後の展望等を明らかにされたい。
3.大宜味村、国頭村や東村、名護市東海岸等では、砂浜が消失し、海岸部の構造物の基礎が損壊するなど、沖合部での海砂採取の影響と思われる被害が広がっている(資料1参照)。
県として、こうした状況の現状調査、原因究明を行うべきではないか?
4.現在、海砂採取時に採取船の周囲の海面に汚濁が広がっていることが確認されている(資料2参照)。
海砂採取認可申請書には、水質汚濁・騒音・粉塵飛散防止対策等を記載した公害防止計画書が添付されている。そこでは、水質汚濁防止対策として、「排水による汚濁防止のため、濁水還流ポンプ装置を設置し、濁水を海底方向へ排水する」とされている。濁水還流ポンプとは、「泥水を自然排出するのではなく、ポンプによって強制的に水深30m程度の海中に排出させ、海洋汚染を防止する装置」である。濁水還流ポンプが稼働しておれば、資料2の写真のように海面に汚濁が広がることはあり得ない。
砂利採取法第34条2項では、知事が立入調査できると定められている。採取の状況、騒音、濁水の発生状況等を確認するため、採取現場への立入調査を行うべきではないか。
5.海砂採取認可書では、「許可の条件」の他にも、「市町村からの要請」として、「以下の項目を遵守すること」として、「月に1回、海岸線の状況を写真撮影すること」、「ジュゴンの回遊ルートやエサとなる藻場が存していることから、生態系への影響がないように配慮すること」、「採取区域や採取期間等の説明を関係各区(安部区、嘉陽区、天仁屋区)へ行うこと」、また、「積載量の順守」、「損害の賠償等」、「権利の譲渡禁止」、そして「特記事項」として、「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請における環境保全措置に次の記載があるので、同措置を実施すること。作業船の航行にあたっては、ウミガメ類やジュゴンが頻繁に確認されている区域内をできる限り回避し、沖縄島沿岸を航行する場合は、岸から10km以上離れて航行します」と記載されている。
認可書には、「許可条件に違反したときは、許可を取り消すことができる」とも明記されているが、ここでいう「許可条件」には、「市町村からの要請」、「積載量の順守」、「損害の賠償等」、「権利の譲渡禁止」、「特記事項」等は含まれないのか? これらの指示事項には、遵守義務がないのか?
2018年当時の認可書には、「損害の賠償」、「公害の防止に必要な措置」、「権利の譲渡の禁止」等も許可条件に含まれ、「許可条件に違反したときは許可を取り消すことができる」と記載されていた。「市町村からの要請」、「積載量の順守」、「損害の賠償等」、「権利の譲渡禁止」、「特記事項」等についても、砂利採取法大31条1項に基づく「認可の条件」である。業者には履行義務があり、違反した場合は知事が許可を取り消すことができることを確認されたい。
6.本年4月29日、久米島近海で遊泳中のジュゴンが撮影された。環境省や沖縄県の最近の調査でも、伊是名島、屋我地島、先島一帯でジュゴンの食み跡が確認され、県も「県内の広い範囲にジュゴンが生息している可能性はきわめて高い」という見解を示している(2025.5.1 琉球新報)。ジュゴンの保護は喫緊の課題としてますます重要になっている。
前述のように、辺野古新基地建設事業では、「作業船の航行にあたっては、ウミガメ類やジュゴンが頻繁に確認されている区域内をできる限り回避し、沖縄島沿岸を航行する場合は、岸から10km以上離れて航行する」とされており、県も海砂採取の認可書にその旨を「特記事項」として記載している。
航行を禁止している海域で、海砂採取を認めることは矛盾している。従来、食み跡が確認された一帯では、海岸から10km以内は海砂採取を許可しないこと。
また、翌月5日までに提出させる報告書類に、採取船の航行履歴が分かる資料を添付させること。
7.昨年11月、名護市東海岸で海砂を採取している業者が安部区に対して、「海砂採取に協力すれば協力金200万円を支払う」と提案した(2024.11.28 沖縄タイムス)。しかし安部区は、受取を拒否し、11月26日の臨時総会で、全員一致で海砂利採取の中止を求める決議をあげている。
海砂採取の認可を受けるためには、県の要綱で、「漁業権区域の内外にかかわらず、関係漁業協同組合等の合意を得ていること」とされているが、沖縄県でも海砂採取業者から関係漁協に協力金等が支払われているのか(注1)? 前述の九州の事例と同額とすれば、辺野古新基地建設事業では約400万㎥の海砂が使用されるから、関係漁協には、4億円~6億円もの協力金が支払われることとなる。
そもそも海砂は公共用財産であり、その採取を巡って地元住民、関係漁協に不明瞭な金銭のやり取りがあるとすれば問題である(注2)(沖縄県国土交通省所管公共用財産に係る土地使用料等徴収条例では、海砂の採取料は128円/㎥であり、この金額は長年にわたってほとんど変わっていない)。 沖縄のサンゴ由来の貴重な海砂を、一部の者にだけ協力金(迷惑料)を払うことによって採取できるというのも納得がいかない。
こうした不明瞭な金銭の流れがあれば、海砂採取の禁止、総量規制の実現にもマイナスとなる。
県として、採取業者が支払っている協力金の額を明らかにさせるべきではないか?
8.沖縄県海砂利採取要綱では、自然公園区域、自然環境保全区域等での海砂利採取を禁止しているだけだが、環境省が指定した「生物多様性の観点から重要度の高い海域」や、同省が指定した「海洋保護区」である共同漁業権区域での海砂採取も禁止すること。
<注1>2019年当時、羽地漁協で海砂採取の協力金の配分をめぐってトラブルとなったが、当時の新聞では、「羽地、名護、本部、今帰仁の4漁協が共同で漁業権を持つ海域では現在、4事業者が海底の砂利を採る計画を進める。4事業者は県から岩礁破砕許可を得るのに必要な4漁協の同意を求め、協力金として1漁協当たり年間最大で4千万円支払うことを約束している」と報道されている(2019.1.19 沖縄タイムス)。
また、本年3月、佐賀県で漁協への協力金の額を巡って裁判が提起されている。そこでは、海砂採取の漁協への協力金が、佐賀県では100円/㎥、長崎県では150円/㎥であったという(2025.3.10 NHK佐賀ニュース)。
<注2>2023年8月には、辺野古新基地建設事業で使用する海砂採取船購入のためという9億円の「投資トラブル」が報道された(2023.8.9、8.29、8.31 琉球新報「幻影の辺野古マネー」)。