ビジネスBLOG @神奈川中央会
神奈川県中央会が提供する中小企業支援情報です!
 




神奈川県中央会では、専門家執筆によるブログの記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第20回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第20回 企業はヒトの結合体


カネの結合体に注目する経営者

 企業は、カネの結合体であると同時にヒトの結合体です。この両方があって初めて、企業は継続的に活動し、世の中に対して価値ある財やサービスを提供できます。どちらか一方が強くなりすぎたり弱くなりすぎたりすると、「あの会社、最近変だよね」と言われることになりかねません。
 企業の中には、カネの結合体の面倒を見る部署がたくさんあります。経理・財務部門に始まって、経営企画、営業・マーケティングなど、カネの動きは多くの従業員によって監視されています。他方、ヒトの結合体のお世話を専門的に受け持っているのは人事部です。第一線の管理職も、部下の面倒を見ることを通して、ヒトの結合体の運営に関わっています。
 経営者は、一般的に、カネの結合体の側面に目を向ける傾向が強いと言えます。特に、バブル崩壊後の経済の低迷から抜け出すために、経営者はカネの結合体への注目度を高めました。振り返ってみると、バブル期は異常でした。高価なモノが飛ぶように売れ、人々はこぞってお金を使いました。バブルが大きかっただけ、はじけたときの落ち込みも深くなりました。しかも、それまでの不況期とは異なり、深い落ち込みが長く続くことになりました。


人員削減によるコスト削減

 売上が低迷する中で利益を出すにはコストを下げるのが最も確実な手段です。1980年代までは、緊急の場合を除いて、雇用に手をつけることはありませんでしたが、90年代は違っていました。背に腹は代えられず、多くの企業が人員削減に走りました。最初は、どの企業も、同業他社や同じ地域の他企業を見ていました。「自分のところが最初に人員削減に踏み切るのはまずい。」ある種のガマン比べでした。そして、耐えきれなくなった企業が人員削減を発表すると、他の企業も堰を切ったように人員削減を行いました。
 人員を減らすと、その人数分だけ人件費が減りますから、コスト削減効果は目に見えて現れます。希望退職募集の割増金で少し経費負担がかさんだとしても、収益改善に大きく貢献しました。コストを減らすための人員削減は、禁断の果実でした。いったんこの味を覚えた経営者は、苦しくなるたびに手を出しました。そして、「人を減らすのは企業が生き残っていくために当然の手段だ」という考え方が一般的になりました。従業員との信頼関係は徐々に崩れていきました。


信頼関係の再構築が必要だ

 いま、グローバル化が叫ばれています。日本市場が縮小していくのですから、活路を海外に求めるのは当然の成り行きです。自社の製品・サービスの価値を海外市場で正当に評価してもらうのは、なかなかたいへんです。それなりの力量を持った人材でないと、この役目を果たすことはできません。結局はヒトの力が成否を分けることになります。
 私たちは、もう一度、ヒトの結合体を強くすることに取り組まなければなりません。その第一歩は、信頼関係の再構築です。経営者がヒトの可能性を最後まで信じ、従業員と一緒に歩むことが重要です。カネは借りることができますが、自社に本当に必要な人材は借りてくることができません。結局は、自社内で育成するしかないのです。地道な努力を積み重ねた企業が最後は勝者になることは、洋の東西を問わない真実だと思います。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、専門家執筆によるブログの記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第19回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第19回 信頼できる人事制度構築のために

1990年代半ば頃から、日本企業の人事制度がおかしくなっています。安定感をなくし、従業員が組織目標達成のために力を合わせる方向に機能していないように見えます。
人事制度は、本来、従業員がいい仕事をするように仕向ける役割を持っています。どちらに進むか迷ったときの指針を提供する役割もあります。
しかし、ここ20年近く、日本企業の人事制度は迷走を続けてきました。基本が定まらないのですから、従業員の仕事の指針にはなり得ません。人事制度に対する信頼感がなくなり、人事部の発言力も低下しました。

 私たちは、どこで間違ったのでしょうか。私は、1990年代の初めに「成果主義」を導入したことが間違いの始まりだったと考えています。当時の日本企業は、バブル崩壊後の不況の中で、売上の低迷と企業業績の悪化という症状を呈していました。これに対処するために「成果主義」が処方されたのですが、かえって症状を悪化させてしまいました。病気のときに原因を特定しないで対症療法をすると、もっと悪くなることがありますが、まさにそれが起こりました。

 「成果主義」という処方は、あまりにも正論だったため、「本当にうまくいくのだろうか」という疑問を持ったとしても、表だって反論できませんでした。よく働いて企業業績に貢献した人には給料やボーナスをたくさん払おう。そうでない人には残念ながら少なくしか払えない―そう言われれば、「確かにそうだ」としか言いようがありません。疑問を持った人たちは、成り行きを見守るしかありませんでした。そして、案の定、問題が出てきました。従業員の納得性が得られなかったのです。

 「成果主義」を導入して満足したのは、全社員の3分の1くらいでした。残りの3分の2の人たちは不満を持ちました。いい仕事をし、業績を上げていた上位3分の1の人たちは、それが認められ、報酬も増えましたから満足しました。
それなりにいい仕事をしていた人たちは、「自分は上位3分の1に入っているはずだ」と思っていましたが、「あなたは平均ですよ」と言われ、報酬も増えなかったのでがっかりしてしまいました。期待が大きかっただけに、落胆も大きかったわけです。
そして、下位3分の1の人たちは、「あなた方は平均以下です」と言われ、報酬も相対的に下がったために不満を持ちました。

 従業員の3分の2が不満を持つような制度が上手く機能するはずがありません。業績への貢献をどう測るか、測った結果を報酬にどう反映させるのかという点で百家争鳴、さまざまな意見が交錯し、混乱が起こりました。

 山に登って道に迷ったときの鉄則は「迷ったところまで引き返すこと」です。これを怠ると、迷いはますます大きくなり、遭難して命を落としてしまいます。日本企業の人事制度は、まさに道に迷った状態です。これを正常化し、人事制度が本来の役割を果たせるようにするには、迷った時点に戻って検討するしかありません。

 人事制度を1980年代までの制度に戻すべきだと主張するつもりはありません。その当時とは、社会の状態や経済環境が大きく異なります。「昔は良かった」という議論をしても得るものはありません。
でも、現在の日本企業が抱えている問題の原因を正しく理解しなければ、解決の道も見えてきません。私たちはどこで間違えたのか、どういう処方が望ましいのか、これからの日本企業は従業員とどのような関係を結ぶ必要があるのかといった点について考えていく必要があります。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、専門家執筆によるブログの記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第18回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第18回 高齢者がイノベーションを起こす

■イノベーションの出発点は問題に気づくこと

企業が競争を生き抜くにはイノベーションが必要です。イノベーションとは、新しい技術や仕組みを生み出すことであり、一般的には、若年層や壮年期の人によって担われると考えられています。しかし、組み合わせ方を変えることもイノベーションの一形態であり、その分野で高齢者が活躍できる範囲は広いと考えられます。

イノベーションの出発点は、私たちが感じている問題や不自由さです。何かうまくいかないとか、もう少しこうなったらいいのに、といった感覚から、新しい製品やサービスが生まれてきます。高齢者が増えてくると、これまでは問題にならなかったことが問題になります。それにいち早く気づくのは高齢者自身です。それゆえ、従業員の中に変化に気づける人すなわち高齢者がいないと、企業はイノベーションの種を見逃してしまうことになりかねません。

不自由さに気づいたら、解決策を考え出すチームを作ることになります。若年層、中堅層、そして高齢層を混合して編成することが不可欠です。高齢者は、長い職業生活の中で豊富な情報を蓄えています。他方、若年層や中堅層は新しい技術を知っています。これら年齢の異なる層が議論することで、新たな知の創造が起こるのです。

例えば、高齢者にとって当たり前のことが若手には理解できない場合があります。そんなとき、高齢者は、若手にわかってもらえるように説明を試みます。言葉を選び、具体例を示しながら言葉を綴っていきます。すると、そこから新たな発見が生まれるのです。


■組み合わせがイノベーションを起こす

高齢者の持つ知識や経験が単独で生きることは少ないと考えられます。でも、そこに別の情報を組み合わせることで、世の中にはなかった新しいものが生まれてくる可能性があります。例えば、プロジェクトチームの中に海外駐在経験が豊富な高齢者を加えると、議論の幅が広がることが期待できます。
日本の社会インフラは、世界一整っています。停電はまれだし、鉄道は正確に運行されています。ほぼ24時間欲しいものを買うことができるという便利さは、日本にずっと住んでいると当然のことになり、その素晴らしさがわからなくなってしまいます。海外に初めて赴任した日本人が最初に面食らうのは、生活面の不自由さです。

しかし、現地の人たちはその中で普通に暮らしています。不自由さや不便さを補う生活の知恵を持ち、快適に生き、人生を楽しんでいます。海外駐在経験者は、そのような実態を目の当たりにし、さまざまなことを考えてきた人たちです。日本のことしか知らない若手や中堅とは異なる視点を提供できるはずです。

このようにして、高齢社会の不自由さをいち早く解決する財・サービスを生み出すことができれば、これから高齢化する他の国々に売ることができます。1960年代の公害問題に苦しんだ日本が、世界最高の公害防止技術を生み出したのと似た現象がこの分野でも起こることになります。

65歳以上人口が全人口の4分の1を超えるような社会は、私たちにとって未知の領域であり、不安になるのは当然です。しかし、他国も同じように高齢化しているいま、大きなビジネスチャンスにあふれているのではないでしょうか。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、専門家執筆によるブログの記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第17回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第17回 日本は世界の最先端を走っている


日本の特徴は高齢化のスピードが速いこと

 人口構成の高齢化は、日本だけではなく先進国や中進国にも共通した課題です。日本の特徴は、高齢化のスピードが速いことにあります。『平成22年版高齢社会白書』によると、高齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数(倍化年数)は、フランスが115年、スウェーデンが85年、比較的短いドイツが40年、イギリスが47年であったのに対し、日本は、1970年から1994年の24年間で7%から14%になりました。

 スピードは各国まちまちですが、高齢化自体は世界的な傾向です。ヨーロッパ諸国はもとより、アジア各国も確実に高齢者の割合は高まっています。その中で先頭を切っているのが日本です。世界の最先端を走るというのは、お手本がないため、自分たちで道を切り開いていかなければなりません。たいへんな道のりです。しかし、見方を変えれば、これほどチャレンジングでおもしろい課題はないとも言えます。

 事実、世界の国々は、日本の高齢化対策に注目しています。ドイツの研究者は、「ドイツの高齢化問題は、日本よりも5年遅れてやって来るという印象を持っている。そのため、日本の施策の成功失敗を注意深く研究している。」と話しています。お隣の韓国や台湾からは、多くの研究者が日本を訪れ、高齢化対策を研究しています。いまや日本は、高齢者活用の分野で世界に範を示す国になっているのです。


人類の理想を実現しつつある日本

 日本の高齢化のスピードが速いのは、長寿化と少子化が同時に発生しているからです。この点については前回触れました。不老長寿は、昔からの人類最大の目的であり、日本はその目的を達成しつつあると言うこともできます。それは、平均寿命だけでなく、健康寿命も世界有数だからです。
2010年の平均寿命(0歳児の平均余命)は、男性79.64歳、女性86.39歳、同年の健康寿命(心身ともに自立して健康に暮らせる年齢)は、男性70・42歳、女性73・62歳でした。厚生労働省基準の健康寿命と世界保健機構(WHO)基準の健康寿命には、両者の定義の違いによって若干の差がありますが、健康に長生きするという点でも日本は世界のトップを走っているのです。


私たち日本人の叡知を示す

 このように書いても、心の晴れない読者は多いと思います。「確かに世界の最先端かもしれないけれど、人口構成の高齢化は問題ばかり多くて、決して手放しで喜べるようなものではない。社会保障費の負担は年々増大するし、公的年金に対する不安も増すばかりだ。未来に希望など持てないではないか」という声が聞こえてきそうです。

 社会は、それぞれに問題を抱えています。暴動やテロなど生命の危険と隣り合わせの国や国民の大半が飢えに苦しんでいる国、言論が統制されていて自由に意見が言えない国など、日本ほど安全で自由な国は他に数えるほどしかありません。
人口構成の高齢化は確かに問題ですが、解決できない課題ではありません。しかも、世界中の国が日本の動向を注視し、成功した施策は他の国の指針になるのです。国民経済の規模では中国の後塵を拝するようになりましたが、高齢化問題への対策では、他国から尊敬され、模範となることができると言えます。日本の叡知を世界に示せる絶好の機会であるととらえ、果敢に挑戦していこうではありませんか。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、専門家執筆によるブログの記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第16回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第16回 高齢者雇用は社会を構成する私たちの責任だ

 2013年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、従業員が希望すれば65歳まで働き続けられるようにすることが企業に義務づけられました。60歳定年制をとっている企業であれば、継続雇用制度を用意して、希望者全員が働き続けられるようにしなければなりません。
 改正法は、いきなり65歳までの雇用確保を求めるのではなく、厚生老齢年金の支給開始年齢に合わせて、3年ごとに1歳ずつ延ばしていけばいいことになっています。当面は、61歳までの雇用延長を実現すればいいので、多くの企業は「とりあえずの措置」として受け止め、さほど大きな混乱は起こりませんでした。

 この法律改正に対して、経営者団体は「政府の公的年金政策の失敗を民間企業に押しつけるとはけしからん」といった内容のコメントを出していました。確かに、今回の措置は、公的年金の支給開始年齢が65歳に向かって引き上げられる中で、賃金も年金も受け取れない無収入期間を生み出さないために取られたものです。その点だけ見れば、経営者団体の批判は的を射ているように思えます。しかし、なぜ公的年金制度の改定が必要になっているのかという、元々の原因に注目すれば、責任を政府の政策の失敗だけに負わせるのは無理があることがわかります。

 公的年金制度の維持が難しくなっている原因は、長寿化と少子化が同時進行しているからです。長寿化だけであれば、こんなにおめでたいことはありません。日本の平均寿命は世界トップクラスですし、健康寿命も世界一です。不老長寿は、竹取物語にも出てくるような、昔からの私たちの夢です。それを実現しつつあるのですから、喜ぶべきことです。

 しかし、事態はそれほど単純ではありません。長寿化と同時に少子化が進んでいるために、全人口に占める65歳以上の比率が急速に高まっています。少子化が起こっていることが、長寿化のおめでたい側面に影を落としています。
 では、少子化の責任者は誰でしょうか。少子化は、何が原因で起こっているのでしょうか。ひと言で言えば、女性が子どもを産み育てたいと思うような社会をつくってこなかったことが最大の原因です。

 総務省の「労働力調査」によれば、30歳代から40歳代前半の男性の約2割は、週に60時間以上働いています。この年代は、子育ての年代でもあります。女性が結婚して子どもを持ちたいと思ったとき、パートナーの男性は仕事に多くの時間を取られ、子育てを一緒に担うことを期待できません。働きながら子どもを育てようとしても、とても難しい現実があります。多くの企業が従業員に長時間労働を求めてきた結果として、少子化が起こっているとすれば、高年齢者雇用安定法改正の原因は企業側にもあると言えます。

 社会の問題は、一部の人たちだけが責任を取ればすむというものではありません。どんな問題も、社会を構成する各人が責任の一端を担っているのです。長寿化というおめでたいことを本当におめでたいものにするために、社会の仕組みを変えていく必要があります。高齢者雇用は、政府の政策が失敗したから必要になったのではなく、私たちの社会を住みやすい状態に保っていくための措置であると受け止めて、前向きに取り組んでいく必要があると思います。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






神奈川県中央会では、3つのテーマによる専門家の記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第15回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第15回 意思決定を成功に導くには

企業経営とは、意思決定の連続です。どちらかに決めなければならないことが次々に押し寄せてきます。経営者は、その時点で最も望ましい決定をしようとします。想定される状況を勘案し、最適な案を選択するわけですが、企業を取り巻く環境条件は、毎日のように変化し、今日最善の決定だったとしても、明日には他の案が最善になることは日常茶飯事です。
では、状況がはっきりするまで決定しなければいいかというと、それはそれで問題です。状況が判明してから決めたのでは、競争相手に後れをとることになるかもしれないからです。かくして、意思決定は、常に不確実な状況を残しながら行われていくことになります。

意思決定は、目指すべき状態を実現するために行われています。この「目指すべき状態」をどれだけの時間の長さで思い描くかによって、採用すべき案が変わってきます。半年後の状態なのか、1年後なのか、あるいは3~5年後なのかによって、「最善」の状態が異なるからです。
1年後に最善を目指す案と5年後に最善を目指す案が同一線上にあれば悩む必要はありませんが、両者はしばしば対立します。例えば、新製品投入のタイミングです。いま、開発中のある製品が50%程度の完成度だったとします。今期の売り上げを取りにいくのなら、50%の出来のものでも製品化して市場に投入するという意思決定になります。他方、息の長い商品として育てていくなら、90%以上の完成度に達するまでじっくり待ってから市場に出す方が望ましいことになります。

これら二つのうちどちらが正しいのかは、時間が経ってみないとわかりません。50%の完成度でも、新しい市場を開拓することに成功すれば、顧客の支持を得て、息の長い商品になることができます。しかし、完成度が低いことが消費者に嫌われれば、泡沫商品となるかもしれません。他方、完成度を高めようと時間をかけた結果、時代の流れに取り残されてしまって、製品化したときには市場価値がなくなっていたということも起こりえます。
ヤクルトの製品の中に、蕃爽麗茶があります。血糖値が気になる人々に愛飲されていますが、この商品は、市場に投入してから売れるようになるまで2年以上かかったそうです。清涼飲料の世界では、新製品として発売してから1か月が勝負だと言われています。しかし、ヤクルトは2年以上も辛抱強く売り続け、その結果、市場の認知度が高まり、売れ筋の商品に育っていったのです。
 経営者は、論理的な状況判断と長年の経験によって培われたカンを頼りに意思決定するしかありません。その際、従業員が持っている様々な情報や考えを上手く取り込めるようにしておくといいですね。意思決定の評価は時間にゆだねるしかありませんが、経営者の志を理解してくれる従業員がいると、意思決定の成功確率が高まるからです。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




神奈川県中央会では、3つのテーマによる専門家の記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院
イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第14回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

■第14回 競争力を高めるには深掘りしかない

■価格競争力

 企業の競争力という言葉を聞いたとき、具体的に何を思い浮かべるでしょうか。他社よりも低い価格で提供できることがいちばんに上がってくると思います。これは、価格競争力です。入札方式で受注できるか否かが決まるとき、価格は重要な要素です。

 でも、価格競争はつらいですね。特に、競争相手が明確なときは、値下げ合戦になりかねません。1円でも安くすることによって、その競争に参加している企業は体力を消耗していきます。できれば避けたい競争ですが、他に策がなければ、この競争には否応なしに巻き込まれてしまいます。


■製品競争力

 他社にはできない製品やサービスを確立することも大事な競争力です。経営学では「製品競争力」といいます。この競争力を持つには、他社には簡単にまねできないような技術力やサービスの仕組みを作りあげることが必要です。「この製品については、貴社じゃないとダメなんだよね」と言ってもらえるようになればしめたものです。
 製品競争力を持つと、価格面の交渉において優位に立てます。つまり、価格競争に巻き込まれなくてすむことになります。経営は安定し、更なる技術力、サービス力の向上が可能になります。
 でも、ここにも落とし穴があります。納入先の製品が競争力を失うと、とたんに受注が減少し、経営の危機になります。一つの製品への依存度が高ければ高いほど、このリスクは大きくなります。競争力のある製品・サービスを複数持つ必要があると評論家たちは言いますが、そんなに簡単ではありません。


■深く掘ると見えてくる世界がある

 では、いったいどうすればいいのでしょうか。中小企業が生き残る道は、一つの製品やサービスにとことんこだわって、極限まで追究していくことしかないと思います。これは、井戸掘りに例えることができます。
 井戸を掘り始めてしばらくすると、最も浅いところを流れている水脈に当たります。大半の人は、そこで止めるのですが、浅い井戸は日照りになると干上がってしまいます。最初に当たったことで満足せず、さらに深く掘っていくと、地下の太い水脈にたどり着きます。ここまで来れば、少々の日照りでも水が涸れることはありません。


■老舗の経営にヒントがある

 製品やサービスには、必ず応用できる部分があります。どこにどう応用できるかは、常にその製品・サービスを研究し続けることで見えてきます。これを実践しているのが、いわゆる老舗と呼ばれる企業です。
 100年以上続く企業が日本には5万社以上あると言われています。日本は、老舗大国です。老舗の経営手法をひと言で表現すれば、本業を大切にして、新しい分野に対応することです。自社の競争力をもっと高めたいと思わない経営者はいません。そのお手本は、みなさんのそばで長く経営している企業の中にあると思います。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




神奈川県中央会では、3つのテーマによる専門家の記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第13回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

第13回 外国語の呪縛を超えて

 英語を社内の公用語にするという会社が少しずつ出てきています。楽天やユニクロがマスメディアに取り上げられ、入社式において英語でスピーチする社長の姿が放映されていました。日本の会社で、しかも外国人社員はごく少数なのに、英語を公用語にするというバカなことをなぜするのだろうというのが、筆者の率直な感想です。
 筆者は、外国の人たちと議論する機会が良くあります。意思疎通するために、相手がわかる言語を使って話します。日本語が堪能な方であれば日本語を使います。日本語がわからない方であれば英語を使ったり、他の言語を使ったりします。言語は道具であり、目的ではありません。その場に最も適した道具を選ぶようにしています。

 しかし、最近の風潮を見ていると、いい道具を持っていることこそが重要だと誤解しかねません。特に、学生たちは、英語ができなければいい会社に就職できないと思ってしまいます。英語は良くできるけれども仕事ができない人、TOEICで900点以上のスコアを出すけれど、社内で重要な仕事を任されていない人がたくさんいるという事実は、ほとんど伝わってきません。
 日産自動車に勤めている友人がこんな話をしてくれました。
「日産は、事実上、外資系の会社になっています。社内に外国人がたくさんいて、英語で会議を行うことは日常茶飯事です。でも、決して英語を公用語にすることはありません。日本語がわかる人たちばかりであれば日本語で会議をしますし、日本語がわからない人が一人でもいれば英語で会議をします。わかり合うためにどうするかが大事なのです。社内の会議なんて、日本語と英語が入り乱れて使われています。それで、参加者全員が意思統一できればいいのです。」

 私たちには、外国語コンプレックスがあります。特に、それは英語に対して顕著だと思われます。でも、人口規模が5000万人以上の国に暮らす人たちは、おしなべて外国語が不得意です。おそらく世界中で最も外国語が下手な国民はアメリカ合衆国の人たちです。彼らは、自国の言語を使って世界中で生きていけるので、わざわざ外国語を覚えようとはしません。
 ヨーロッパでは、ドイツ人、フランス人、イギリス人、イタリア人が外国語下手の人たちです。国内マーケットが大きいので、自国の言語だけで十分仕事をしていけるからです。他方、ベルギー、オランダ、デンマーク、スウェーデンといった国の人たちは外国語がとても上手です。それは、国内市場が小さいので、他の国々と交易しないと生きていけないからです。

 日本は、1億2800万人の大きな国です。日本人が外国語が下手なのは、世界標準からいうと当然です。日本は貿易立国だと言われますが、GDPに占める輸出の割合は15%でしかありません。外国語を話さなくても十分に生きていけるだけの経済規模を持っています。
 そろそろ、外国語コンプレックスを捨てて、本当に必要なものを見極めたいですね。本当に必要なものとは、新しいものを生み出す力、ゼロから1を創り出す力です。外国語学習に使う時間を議論や読書にあてた方が、企業の競争力を高める上で、はるかに高い効果があると思います。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、3つのテーマによる専門家の記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第12回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------
管理職の3つの役割(その3)
■問題を発見する

 ビジネススクールの教材としてケーススタディが良く使われます。実際に起こった出来事を調査して、5W1Hを記述していきます。ハーバード・ビジネススクールが開発し、これまでにたくさんのケースが積み重ねられてきました。日本では、慶應ビジネススクールが開学以来ハーバード・ビジネススクールに学んで、ケーススタディの手法を取り入れて教育しています。
 「ビジネススクール=ケーススタディ」という感がありますが、ケーススタディは万能ではありません。マイケル・ロベルト著『なぜ危機に気づけなかったのか?―組織を救うリーダーの問題発見力』(英治出版)の冒頭に、国務長官を務めたマクナマラ氏との会話が紹介されています。
マクナマラ氏は、ハーバード・ビジネススクールの出身で、ケース・スタディをたくさん経験してきた人です。その人物が著者のロベルト氏に次のように言います。「ケーススタディの欠点は、問題が何かわかっていることだ。他方、現実の世界では、問題が何かを特定できないことが多い。本当に必要なのは問題を発見する力だ。」

 貴社でも、ありませんか?「何かおかしいのだけど、何がどうおかしいのかがよくわからない。」そうです。問題を特定するのはとても難しいのです。問題がはっきりすれば、解決策はいくらでも用意できます。他の企業が試してみた経験が比較的簡単に手に入ります。あとは、それらの解決策の中から適切なものを選んで実行するだけです。問題が何かを明らかにすること―これが管理職に求められる3つめの役割です。

 では、どうすれば問題を発見できるようになるのでしょうか。一つの有効な方法は、外の世界を知って、別の視点で物事を見られるようになることです。管理職は、会社の中だけで仕事をしていてはいけません。外に出て、いろいろな人と議論する機会を持つことが必要です。自社で当たり前として受け入れられていることが他社ではそうでなかったり、自社では大きな問題になっていることが他社ではそうでもなかったりします。外の世界を知ることで、自社の問題を多様な視点からとらえる能力が磨かれます。
 これは、他社と比較するとか、ベンチマークを決めてチェックすることにつながります。人のすることには共通性がたくさんあります。同業他社だけでなく、全く別の業種で起こっていることが役に立ったりします。眼を開いて、フィルターを通さずに、しっかり観ることが問題発見の第一歩です。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





神奈川県中央会では、3つのテーマによる専門家の記事を載せています。

---------------------------------------------------------------------------------

本日は「経営者側からの視点での人事労務」をテーマとした法政大学経営学大学院イノベーションマネジメント研究科藤村博之教授の第11回目の記事となります。

---------------------------------------------------------------------------------

管理職の3つの役割(その2)

■考える習慣をつけさせる

 管理職の2つ目の役割は、部下に考える習慣をつけさせることです。第9回のブログで、幸運の女神の前髪をつかむには、考え続けていることが必要だと書きました。前髪をつかめるような組織にすることが管理職の大切な役割です。
 考えることは読書と同じで習慣です。いつも続けていると、それが当たり前になります。「みんな仕事をしているのだから、毎日考えている。何を今さらそんなことを言うのだ。」という反論が聞こえてきそうですが、ここで言う「考える」は「多様な発想を持つ」ということです。
確かに、仕事をしていると考えます。しかし、通常の業務だと、考えなくてもできるようになって来ます。それは、考えているようで考えていない状態です。通常の業務でも、いつもとは違った方法をとってみようとか、アプローチのしかたを変えてみようとなると、考えます。管理職は、部下にこのような仕事のしかたを植え付ける役割を担っています。
例えば、部下が報告に来たとき、「こういう別の視点からこの業務を見るとどうだろう?」という質問を投げかけてみます。慣れ親しんだやり方ではなく、別の方法を試させるのです。すると、部下は否応なしに考えます。

管理職は、ときには弱みを見せて、部下の思考を刺激することも必要です。部長から新しい業務を指示されたとき、「これはみんなで考えると良さそうだ」と判断し、部下に呼びかけます。「いま、部長からこんな命令を受けたんだけど、僕、よくわかんないんだよね。みんなで考えてみてよ。」新しい業務について自分自身の方向性は持ちながら、あえてわからないふりをして、部下を思考の森に誘い込みます。
部下を巻き込んで考えさせるときは、徹底して聞き役に回って下さい。議論の方向が望ましくない方に振れたら、じっと見ていてください。部下の中から方向転換する意見が出てくるはずです。それが出てこなければ、適切な質問をして軌道修正を促します。なかなか忍耐力のいる役回りですが、聞き役に徹しないと部下の考える力は育ちません。

もちろん、考えることだけで仕事は完成しません。考えて決まったことを実行しなければなりません。分担を決めて実行させ、適宜、進捗状況をチェックすることも不可欠です。管理職の役割は、自分がしたいと思っていることを部下にしてもらうことです。この点を肝に銘じていただきたいと思います。

---------------------------------------------------------------------------------

法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科
教 授 藤 村 博 之
http://www.fujimuralab.com/

---------------------------------------------------------------------------------



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 前ページ