![]() | 私にふさわしいホテル (新潮文庫) |
柚木 麻子 | |
新潮社 |
記憶にある限りでは初読の柚木麻子作品。
主人公の不遇な作家の卵が、良くも悪くもパワフル。
どこで何やってもこれだけのバイタリティーがあるなら成功しそうな彼女が不遇なのは、
デビュー時に躓いたから。
とにかくデビューしたいと手当たり次第に応募した新人賞で受賞出来た賞が
落ち目となり「路線変更」を考えている某元アイドル女優の所属事務所と
その事務所の社長とズブズブな関係の中小出版社の出来レースで、
何も知らないままその出来レースに巻き込まれてしまったから。
世間の目を欺かせるために(効果はイマイチだったようだけど)
「同時受賞者」とされた彼女に、世間もマスコミも同業者すらも注目はしなかった。
もっとも、それが後に役に立つのですがね。
受賞会見では元アイドル目当てのカメラマンには突き飛ばされ、
おざなりな質問をする記者には何度も名前を聞き返され、
取り上げられた新聞の写真は、自分は半分ぶつ切りに見切られた写真・・・
バイト掛け持ちのフリーターをしながら作品を出版社に送るも、なしのつぶて。
元アイドルはゴーストライターを付けて二作目発表予定。
主人公・加代子の大学の先輩の編集者・遠藤が一計を案じ
まんまと成功して大作家が落とした原稿の代わりに作品を載せられる事になったら、
デビュー以来送った原稿にもろくに目を通してくれもせずに放置状態だった
担当編集と出版社の横やりで没。
曰く「うちの大事な作家に、他社で連載を持たせるな」。
が、自社で連載を持たせてくれる訳でもなし。
主人公でなくてもキレるわな。。
再び遠藤が動き、外見とペンネームを変えた加代子は再度新人賞を受賞。
作家として再デビューを飾る。
無理がある展開だろう!! と突っ込みたくなりますが、
出来ちゃったんですよね~~。
なんせ、同業者も殆どが覚えていないような扱いだったんだから・・・
加代子に嵌められた大御所作家が、何とも魅力的。憎めません。
主人公の加代子も、最後の復讐の執念深さにゾッとさせられたものの、やはり憎めない。
そうだよなあ。うんうん。
「大人の事情は百も承知だが、新人賞だけはやめてくれ!!!」は、一理ありますよ。
そーいや、そんな風な聞いた事のない(殆ど新設の)新人賞を獲得して
作家デビューした若手から中堅クラスの俳優が居ましたねえ?
今どんな作品を書いているんですかね?
若さも才能も美貌も加代子以上の物を持ち、
一時は遠藤の編集者としての情熱すらも加代子から奪い取れた女子高生作家は、
デビュー作一作で消えました。
やっかみ半分の(ネット等の)批評に耐える図太さが無かったから。
「スポットライトが当たらないなら、当たる所に乗り込んでやる!」な気迫など、
ハナからゼロ。遠藤の「励まし」も逆効果。
彼女はその代りに一部のファンの間である種のカリスマとなれたようだけど、
現実には一作で消えてそれっきり忘れられる人の方が圧倒的に多いのでしょうね。
加代子に振り回されて人生が好転した人は、何と言っても大御所の東十条宗典。
作家として一皮むけて再浮上しただけでなく、家族関係も回復させられたのだから。
加代子の友人の長らく不遇だった女優に至っては、
加代子の騒動には殆ど絡んですらいなかったのですが、最後にチャンスを生かし切った。
元々実力と才能はあり、ちゃんと下積みで勉強してきていたから。
加代子と同時受賞の女優。
才能も実力もないのに勉強しない人の末路、でしょうかね。
同時受賞の相手が悪過ぎたね~~
まあ、遅かれ早かれ似たような事にはなっていたと思うけど・・・