門司の老舗ホテルで、修学旅行の中学生と同宿になった時のこと。夕食時間帯は、ラッシュアワーさながらで、各階で生徒が次々に乗り降りし、エレベーター内は嬌声に包まれた。
はしゃいでいる子供たちの中に、開閉ボタンを操作している女生徒がいた。ロビー階に着き、最後に降りようとしていた私達夫婦に、「どうぞ」と声をかけてくれた。「お先にどうぞ」と返すと、「じゃあ、失礼します」と一礼し、仲間を小走りに追いかけて行った。
食事を終え、部屋へ戻る時、その女生徒とまた一緒になった。同フロアだったらしく、降りる際、同じ会話を交わすことになったが、「さっきは、私が先でしたので今度はお先に」と切り返してきた。「ありがとう」と受けたが、とても中学生の見識とは思えず、鮮烈な感動が走った。
きっと、両親の教育が行き届いているのだろう。少なくとも、自分の50年前とは雲泥の差だ。今も昔も、年配者は我が身を忘れて、若者を批判する傾向があるが、「最近の若い人にも、しっかりした子がいる」と、心嬉しくなった。