電脳筆写『 心超臨界 』

人の心はいかなる限界にも閉じ込められるものではない
( ゲーテ )

夫が手を差し伸べると、脳の嫌悪反応が減少する――池谷裕二さん

2008-01-08 | 09-生物・生命・自然
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手を伝う心――脳研究者・池谷裕二
【「あすへの話題」07.12.26日経新聞(夕刊)】

この連載エッセイ、今回で私の担当も終了する。毎回できるだけ新鮮なネタを紹介するように心掛けてきたが、最終回は少々古い論文を紹介したい。昨年末に発表された『手を貸す』と題された論文である。

こんな実験だ。既婚女性を集めて、手首に強い電気ショックを与えようとするだけで嫌悪の脳回路が活性化するようになる。痛いのだから当然だろう。

そこで夫にも協力してもらう。ベッドの脇でパートナーの手を握ってもらうのだ。手首への電気刺激は同じだが、今回は最愛の夫が手を握っている。さて、脳の反応はどう変化するだろうか。

微笑ましいことに、夫が手を差し伸べると、脳の嫌悪反応が減少することがわかった。実際、嫌悪を感じたかと尋ねると「今回はそれほど苦痛ではなかった」と返ってくる。見知らぬ人が手を差し伸べても嫌悪は減じないというから、これは夫だけが持っている「愛の力」ということになる。

目に見える愛情だけが愛情ではない。ここでは手を差し伸べるだけで十分なのだ。

手を尽す・手間がかかる・手を焼く・手塩に掛ける・手を抜く――「手」に関する言語表現は枚挙に暇(いとま)がない。それほど手はシンボリックだ。他者の脳さえもコントロールする力を秘めている。先の実験でも、貸したのが足だったら効果は薄かっただろう。「手を伝う」と書いて「手伝う」――まさに手は温柔敦厚(とんこう)な心の通い路だ。

ちなみにこの実験、仲のよい夫婦でないと鎮痛効果はなかったという。逆に言えば、脳の反応を見れば、どれほど良好な関係を築いているかが一目瞭然(りょうぜん)なわけだ。

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