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電脳筆写『 心超臨界 』

強みは物理的な能力がもたらすものではない
それは不屈の信念がもたらすものである
( マハトマ・ガンディー )

害毒とも共存する人間――曽野綾子

2025-03-01 | 03-自己・信念・努力
20年に及ぶブログ活動の集大成 → <a href=https://blog.goo.ne.jp/chorinkai/e/3d8eb22fad45ce7b19d6a60e8a70b7e7" target="_blank">★仏様の指
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現世の「事情」は必ず善悪混合で、「嘘つき」も困るが「嘘をつけない人」も始末に悪い。カトリック教会では、昔はミサの中で無言のうちに神に「わが罪」の許しを求める場があった。恐らく罪を犯さない人は現世に一人もいない、という前提のもとに、「おお、私の罪よ」と無言で嘆く場があったのだ。罪といってもいろいろある。殺人、放火、窃盗などの明快な罪は、今までのところ私も犯したことがない。しかしサボり、手抜き、わざと忘れてほうっておくこと、不誠実など、「微罪」は無数にある。


◆害毒とも共存する人間――曽野綾子・作家
(「小さな親切、大きなお世話」産経新聞 R02(2020).07.26 )

ジャーナリズムの世界の人に「お宅ではコロナはどうですか」などと聞かれると、私は返答に困る。

わが家ではコロナが流行しようとしなかろうと、生活はほとんど変わらない。私は家庭の平和のために帰宅時には一応手を洗うが、実は昔から丁寧に手を洗う習慣もないのである。家族の会話の中にも、社会の傾向として以外に、「コロナ」が出ることもない。

手洗いというものは、私にとってまことに現実性の伴いにくい行為なのである。もちろん私も同じ屋根の下で暮らす人たちのためにも清潔は心がけているが、私は時々途上国に行くので、そういう国で病気にならないためには逆に常日頃、少々の不潔に慣れておく必要がある。と心の中では思っている。しかしこういうことはあまり人には言わない。家族にも言わない。

現世の「事情」は必ず善悪混合で、「嘘つき」も困るが「嘘をつけない人」も始末に悪い。カトリック教会では、昔はミサの中で無言のうちに神に「わが罪」の許しを求める場があった。恐らく罪を犯さない人は現世に一人もいない、という前提のもとに、「おお、私の罪よ」と無言で嘆く場があったのだ。

しかし私は後年、ある座談会の場で、作家の一人が、「僕は生涯に、罪なんか犯したかなあ」と言う場面に遭った。

罪といってもいろいろある。殺人、放火、窃盗などの明快な罪は、今までのところ私も犯したことがない。しかしサボり、手抜き、わざと忘れてほうっておくこと、不誠実など、「微罪」は無数にある。

別に前科者同盟を結ぶわけではないが、人間、いささかは心やましい部分がないと人間になれない。果物でいうといたんだこの部分が、果実の味にあたる人間総体の魅力を促し、何より他者に寛大にもするのである。

この人生の芳香の部分を大切に思う人が、芸術などの仕事にかかわる。芳香などというものは、果物の出荷時の値段にはかかわらないと思う人は、役人になる。別の資質で果物を評価しているのだ。それはそれで立派な評価基準である。

無理に説明してみると、私も家族もコロナにかからない、と思っているわけではない。しかし必ずかかるわけでもない、と思っている。生きている限り、ウイルスは外部から入ってくるだろうが、それを私たち自身が体内で殺す力があるかないかだ。だから昔、兵隊として満州などの「外地」に行く人たちは、「食前食中食後に水飲むな」と言われたという。食事と同時にお茶や水を飲めば、胃酸が薄まって、外部から入る菌を殺せなくなる。だからビールやお茶を飲みながら食事をするような習慣は一番いけないというのだ。

体にいいとされるものを摂取するだけではない。人間は多分に、体にとって「敵」と思われているものも、摂取しなければ生きていけないのだ。しかしその場合には、その害毒を体内で薄める機能も人間には備えられている。その複雑さが、人間のすばらしいことなのだ。
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