遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

菅楯彦の道成寺

2019年04月24日 | 能楽ー実技
先回見た、道成寺縁起絵巻の冒頭の部分です。
宿の人妻に迫られた若僧が、それを断り、翌朝、熊野詣に出発する場面です。



よく見ると、画面の上部には、その前夜、忍んできた女とそれを必死で断る男の様子が描かれています。

このように、同じ図の中に、時間的に異なる情景を描くことを、「異時同図」と言い、絵巻物ではよく使われる手法だそうです。
一つの構図のなかに、登場人物の動きを、時間の変化を追って描けば、表現のくどさを避けながら、ストーリーが展開できるからです。

「争か偽事を 「かならず待まいらせ候べく候」 「先の世の契りの
 申候べき。                            ほどを
   疾ゝ                         御熊野ゝ
参候べし」                          神のしるべも
                                      など、
                                    なかる
                                     べき」
「御熊野の
  神のしるべと
    聞からに
 なほ行末の
   たのもしき
        かな
           これまで 
            にて候。下向を
                御待候へ」

 
 さて、もう一枚の絵です。


この絵は、ずいぶん昔、「道成寺」とタイトルにあったので、つい買ってしまいましたが、本当に道成寺かと疑問がわいてきて、お蔵入りになっていた品です。
        (そんな品がゴマンとあります(笑))

今回、絵巻と比較して、はじめてわかりました。

道成寺縁起絵巻の冒頭部を写した絵です。

作者は、菅楯彦。大正、昭和に活躍した日本画家です。独学で絵を学び、歴史画や風俗画を描いた大和絵の画家です。




書かれている文面は、道成寺縁起絵巻とほぼ同じです。
しかし、室町時代の文字より、大正・昭和に書かれた文字の方がはるかに読みづらい。気分を出すために、このような書体にしているんでしょうか。

季節は、絵巻では紅葉の秋、この絵では、梅の初春。
女性は、可憐な少女に見えます。絵巻の女性のような、後の展開を予感させるものは感じられません。

いずれにしても、独特のタッチで、少女と若僧の別れを、たおやかに描こうとしたのでしょう。

菅楯彦が、後の場面を描いたらどんな絵になっていたでしょうか。

残念ながら、それは無いものねだりだと思います。
この冒頭の場面、絵巻にあるような屋内の二人は描かれていません。異時同図ではないのです。
絵は、多分、これで完結。

ところで、この絵、触ってみると、デコデコしているではありませんか。
肉筆だとばかり思っていたのですが、木版画でした。

それにしても、色の濃淡、ぼかし、たおやかな線、文字のかすれなど、こんなにもうまく表現できるのですね。
日本の刷りの技術はすごい!




コメント (5)
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