ギリシャ神話あれこれ:カリュドンの猪狩り

 
 子供の頃、天井の低い洞窟の広間のような空間に、無数の蝋燭が灯っている夢を見たことがある。蝋燭は長いものから短いものまで、揺らめく炎は明々と燃えるものから今にも消え入りそうなものまで、様々だった。幻想的で荘厳で、畏怖すべき光景。おびただしい炎に私はボーッとなった。
 これらは命の蝋燭なのだという。私は自分の蝋燭を探したけれど、どれがそれなのかは分からなかった。何の物語を読んで、こんな夢を見たのだろう。

 カリュドンの王オイネウスの息子、メレアグロスは、数々の武勇で知られるギリシャ神話の英雄。

 メレアグロスが生まれて7日目の夜のこと。赤ん坊に添い寝していた母アルタイアは、夢うつつのなかで、怪しげな老女が3人、糸を紡ぎながら炉を囲んで立っているのを見る。老女は薪を取って炉に投げ入れ、お前に、この薪の長さと同じだけの寿命を与えよう、と言う。
 老女たちが姿を消すと、アルタイアは急いで炉から薪を拾い上げて火を消し、今のは運命の女神モイラたちに違いない、と悟って、その薪を大切に箱のなかに隠しておく。

 やがてメレアグロスは、立派な若者へと成長。殊に狩猟の腕に優れ、イアソン率いるアルゴー船の冒険にも参加。帰還後は、イダスの娘クレオパトラ(あのエジプトの女王クレオパトラではない)と結婚。
 さて、あるとき、敬虔なオイネウス王がどういうわけかアルテミス神への祭儀を度忘れしてしまったことで、アルテミスは大激怒。報復に、どんでもなく巨大で凶暴な野猪をカリュドンの野へと送り込む。野猪は人畜を殺すわ、田畑の作物をなぎ倒すわ、果樹を覆すわの、ひどい暴れよう。

 ほとほと困り果てた王は、ギリシア全土から名のある勇士たちを募り、猪狩りを催すことに。腕に憶えのあるつわものたちが、続々とカリュドンに集結する。カストルとポリュデウケス、イダスとリュンケウス、テセウスとペイリトオス、イアソン、ペレウス、カイネウス、などなど。
 そして、一同の眼を引きつけた紅一点、美しい狩人アタランテも。

 一同のなかには、女を野猪狩りの仲間に入れることに不満な者もいた。が、アタランテに恋しちゃった王子メレアグロスは、彼女を歓迎、一同を説得する。

 さて、狩りが始まると、ケンタウロスのヒュライオスとロイコスが、よせばいいのに美女アタランテを犯そうとして襲いかかる。が、逆にあっさり彼女に射殺される。
 ……武勇は女のものではない、なんて言って、アタランテと一緒に行動するのを潔しとしない勇士たちも、結局、自分も含めてこういうことが起こるのを敬遠したい、というのが本音だったのだろう。

 画像は、ルーベンス「カリュドンの猪狩り」。
  ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens, 1577-1640, Flemish)

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