魅惑のサバラン

 
 サバランというお菓子は、ブリオッシュをくりぬいて、洋酒の効いたシロップにどっぷりと浸し、生クリームやフルーツを詰め込むものを言うらしい。
 別名はババ。なんだかヘンな名前だけど、ババは、“アリババ”のババ、なのだとか。
 
 私が中学生のとき、母がパン教室に通っていて、最後の日に作ってきたのがこれだった。母の持って帰ってきたのは、真ん中の穴が貫通していないドーナツのような形のサバランで、私たち家族にはみんな、初めてお目見えする代物だった。
 なんじゃこりゃー、と言いながらみんなで試食したのだけれど、ジュワッとしたブリオッシュと生クリームとのハーモニーがなんとも絶妙で、美味しいねー、美味しいねー、と言いながら食べた。
 が、あとになって、も一回サバラン作って、と、いくら母にねだっても、「とっても手がかかるから作れないわよ」と、にべもなく断られ、あれきり二度と食べることはできなかった。

 ずっと前のことになるが、私もサバランを作ってみた。私のサバランは、ブリオッシュの代わりにスポンジケーキを使った、簡単レシピ。ブリオッシュを焼くのは面倒臭いもんね。
 で、これをブランデーたっぷりの紅茶のシロップにどっぷり漬けて、クリームと苺を添える。
 相棒もまた、サバランなるものを知らなかった。で、散々、へー、とか、ふーん、とか言ってから、さて、食べてみるとやっぱり好評だった。

 連休に一晩、徹夜してからというもの、いくら寝ても頭がボケーッとしたまま、シャキッとできない。
 徹夜なんて修論以来。こういうとき、夜中に甘いものが食べたくなる。なのに、口のなかがパサつくのは嫌。歯でしつこく噛むのも嫌。ただ甘いだけのジャンクなものも嫌。……小腹の空いたときとは違って、頭を使うと、大食漢の脳味噌は、贅沢なものしか受けつけなくなる。私の場合。
 リッチなプリンとか、レアチーズケーキなんかが食べたかったのに、冷蔵庫のなかにはほとんどなにもない。チョコレートすら切らしてる。仕方がないから、コンデンスミルクをぺろぺろ舐めて、朝まで凌いだ。

 そのとき、なぜだかサバランを思い出した。

 画像は、P.ディキンソン「静物、ティー・テーブル」。
  プレストン・ディキンソン(Preston Dickinson, 1891-1930, American)
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