親不知・子不知

 
 黒姫駅には浪漫号が停まっていた。団体専用車らしく、内部は畳に掘ゴタツ、障子窓の座敷。カラオケルームまである。
「珍しい電車だから、撮っといたら?」と相棒。
 カメラを構えているところに、駅員たちがやって来た。年配の駅員がにこにこしながら、
「この電車ももう終わりだから、記念撮影しましょうか」なーんて調子よく話しかけてきて、私たち三人は、女性が傘を差しているマークの横に並べられ、パチリと撮られてしまった。

 相棒曰く、鉄道ファンは車両好きと、時刻表好きとに分別できる。で、前者には気の好い人が多いのだという。あの年配の駅員はきっと、前者のタイプなんだろうな。

 黒姫の先は、いよいよ新潟。黒姫の次が妙高、それからずっと、米所らしい田んぼの風景が続く。豪雪に備えてか、傾斜が左右非対称の屋根が多い。
 直江津で乗り換えるついでに、新潟名物、笹団子をゲット。売店で見物した駅弁のカバーには新潟の方言が書いてあった。嘘吐きを「てんぽこき」と言うのだそう。私はさしずめ、「しょったれ(=だらしがない)」かな。

 ところで、中学の林間合宿のとき、担任の先生がしてくれた怪談を一つ。

 古来、北陸道には、親不知という最大の難所がある。北アルプスの北端がズドンと直接に日本海に落ち込む断崖絶壁で、一方の側には懸崖、もう一方の側には荒波が迫り来る。
 越後・越中を往来する旅人は、この断崖を海岸線に沿って、生命を賭して進まねばならない。絶崖の岩壁には数メートルおきに、人一人ようやく入れる穴が開いており、旅人は、その穴に身を隠して波をやり過ごす。今来た波が引くと同時に、旅人は、次の波が来るまでに、次の穴へと一目散にひた走る。

 さて、このようにして、ある男が親不知を越えようとしていた。波の合間をついてようやく最後の穴へとたどり着いたとき、穴のなかにはボロを纏い、草鞋を履いた一人の老婆がうずくまっていた。

 To be continued...

 画像は、市振から見た親不知。

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