夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

百年の時計(その2)

2013-07-08 23:10:32 | 映画
内容の紹介の続き
時計の持ち主の捜索はやがて、芸術家・安藤の原点とも言える、若き日の道ならぬ恋の記憶へとたどりつく。
この懐中時計はもともと、百年前の明治44年(1911)、琴平電気鉄道が開業した年に、車掌になった高橋という男が記念に作らせた一点物だったが、昭和30年(1955)、質屋に売られたのだという。
その後、この時計を買い求めたのが、氏部由紀乃(うじべゆきの=中村ゆり)という女性で、旧家に嫁いでいたが姑と折り合いが悪く、出版社に勤めに出ていた。由紀乃は当時盛んだった労働運動の女闘士的存在で、毎日「ことでん」の同じ車両に乗り合わせるうちに、安藤と互いに惹かれ合うようになる。
安藤はそのころ19歳、絵描きになりたいという夢がありながら、病気の父親を抱え、石切場で働きつつ、時々無料で銭湯や映画館の絵を描かせてもらう、貧しい若者だった。
由紀乃は安藤のために毎朝お弁当を作ってきてくれるようになり、また彼の必要としている画集や美術書を貸してくれ、通勤の電車内は安藤にとっての美術教室になった。
絵のモデルにもなってくれた由紀乃。しかし、安藤が由紀乃に恋心を打ち明け、結ばれたことから、彼女の運命は暗転してしまう。
東京に出て本格的に美術の勉強をしたい、一緒に来てくれとせがむ安藤に、由紀乃は首を振る。そして、別れの日、電車で由紀乃は安藤に懐中時計を渡し、
「あなたに、これからの時間を捧げます。私をどこまでも連れていって。」
と言い残して立ち去る。安藤が上京した直後に由紀乃は離縁され、その後の行方はわからなくなった。



涼香の助けを得て、自分の過去の記憶と向かい合った安藤は、新しい作品の構想がひらめく。
開通百周年となる「ことでん」に全面協力を呼びかけ、実際に走る列車を素材に使った現代アート作品。それは、電車に乗り込んだ人々が、時を超えて、激動の近現代日本の移り変わりと、それぞれの記憶に向かい合う、「百年の魔法電車」。
回顧展までわずか半月で、実施が危ぶまれる中、安藤の「できるだけ多くの人を巻き込みたい。」という言葉に刺激を受けて、涼香も周囲の人々を次々に巻き込んでいき、ついに開催初日まで漕ぎ着けるが…。

感想

ここまで読んできた読者の方はすでにおわかりだと思うが、この映画のもうひとつの主役は「ことでん」であり、百年の時を超えて人の世の移り変わりと、人々の出会いと別れを見守ってきたことをうかがわせる描写になっている。
映画の最後のシーンは、「ことでん」が走っている姿だけでさまになり、思わずジーンときてしまう。先日乗った時も、車窓から見える眺めを美しく思ったが、住宅街や田畑を縫って「ことでん」がただひたすら走る風景もすばらしい。

高松中央商店街(片原町)、栗林公園・宮武製麺所(うどん店)・讃岐富士・高松市美術館など、ご当地的要素も満載で、観るだけで旅行気分。主演二人を初めとする役者たちの演技、音楽、主題歌(D-51の「めぐり逢い」)…いろいろな楽しみ方ができる映画だと思う。

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1 コメント

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時空 (風の靴)
2013-07-09 12:35:53
懐中時計・・・

異国情緒漂わせる、どこかノスタルジーを感じさせてくれる懐中時計は素敵ですよね。

懐中時計はあのチェーンがなんとも言えずアンティークな印象で、形といい私も大好きです。

見るとつい魅入ってしまいます。(笑)

それに懐中時計は背広の内ポケットやズボンにそっと身に付けているので特にお洒落ですよね。

人と共に遥か昔から時をを刻んでる様に感じて・・・

時空を超えて何となく懐古的な気分に浸ってしまいます・・・(笑)
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