夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

川端康成と東山魁夷展

2015-05-05 23:42:45 | 日記
先日の松江歌会に出席した折、参加者の方から現在開催中の、
「川端康成と東山魁夷展―巨匠が愛した美の世界―」
の展覧会を勧められ、歌会が終わった後、早速行って来た。


松江駅を出て、宍道湖のほとりの島根県立美術館までゆっくり歩いた。
この日はあいにくの曇り空で、時折小雨がぱらつく天気だったが、水の都ともいうべき松江の街の風情にはむしろふさわしかったのかもしれない。

文豪・川端康成と日本画の巨匠・東山魁夷との間には、公私にわたる交流があり、百通を越える往復書簡が発見されている。
川端の小説に東山が装丁を施し、東山の画集に川端が序文を寄せ、また東山の個展やアトリエを訪れて作品を購入するなど、両者は互いの仕事に尊敬の念を持っていた。
今回の展覧会では、二人の交流の軌跡を軸に、東山魁夷の絵画や、川端・東山がそれぞれ蒐集した美術品、川端関連の書簡・写真などが展示され、美術的にも文学的にも価値の高い催しであったと思う。

昭和30年の川端宛て東山書簡に、

先日はご多忙中をお邪魔致し失礼致しました 日頃の念願が叶ひ先生にお目にかかることが出来ました上に貴重な御所蔵の御品々を拝見させて戴きまして誠に有難く存じます 玉堂の雪景、大雅蕪村の画帖、宗達の蓬、石濤の梅竹を拝見しました

云々とあるが、川端康成は後に国宝に指定された浦上玉堂「凍雲篩雪図」、池大雅「十便図」、与謝蕪村「十宜図」を所蔵しており、それが今回の展示の目玉になっていた。


川端は、東山の風景画に接すると敬虔な思いに包まれるとし、
いづれやがて、今日よりもなほ、東山さんの風景画は、日本の自然の美しい魂と見られ、東山さんは日本民族古今に貴寵の風景画と仰がれるであらうと私は信じる(「東山魁夷私感」昭和46年)
と述べている。

私自身も、東山魁夷の絵は大学生の頃から好きで、企画展に行ったり、長野の東山魁夷館に行ったりしているが、いつ見ても、そこに描かれた風景が自分の感性に自然にしみこんでくることを感じる。
私の心が捉え、美しいと感じる日本の自然のたたずまいは、まさにこうした山や河・湖の姿であり、こんな印象を与える短歌を詠みたいというのが、たぶん自分の内発的欲求としてあると思う。

また、今回の展示で川端康成の個人コレクションを見て、絵画美術から調度・日用品まで、自らの審美眼に適った一流の品々を身近に置き触れていたことが創作の源泉にもなっていたことを知り、文学だけ見ていても文学はわからないことを改めて感じた。
この企画展は、今週末まで(5/10終了)なので、興味がおありの方はぜひお見逃しなく。