夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

続・昔の歌を見つける

2015-04-03 22:03:29 | 短歌
先日、引越しのために部屋の本やノートなどの整理をしているときに、自分ですら忘れていた、昔の詠草を見つけた。
若気の至りというやつで、『堀河百首』の題で百首を詠もうとして、すぐに挫折したらしく、春二十首のうちの七首しかできていない。

『堀河百首』は、平安時代後期の定数歌で、『堀河院御時百首和歌』ともいう。
源俊頼・藤原基俊ら当時を代表する十四人の歌人が、百題から成る百首を詠み、堀河天皇に献じたものと考えられている。

『堀河百首』は、春二十首・夏十五首・秋二十首・冬十五首・恋十首・雑二十首から成る、組題百首の祖であり、後世の和歌や歌人に大きな影響を与えた。
また、新古今時代の歌人は、藤原定家、慈円、藤原家などのように、初学期に『堀河百首』の題で百首歌を詠んで、詠歌の修練に励んでいた。

こうしたことを知識として知っていたので、当時、大学院で『新古今集』について学び始めたばかりの私は、『堀河百首』題に挑戦してみようとしたのだろうが、いかにも無謀であった。

    立春
  昨日まで涙にこほる袖の上にさざ波よする今朝の初風
    子日(ねのび)
  しかすがに雪降る里の野辺に引く松のみどりに千代ぞこもれる
    
  待つ人の麓の道は絶え果てて霞にとづる宇治の山里
    
  鶯の鳴く声なくは諸人(もろびと)の春来ることをいかで知らまし
    若菜
  春の野の雪間をわけて若菜つむ君が家路のつとにせましを
    残雪
  ももちどりさへづる春になりぬれど松に残れる去年(こぞ)のふる雪
    
  わが宿の軒端にかをる梅が枝も袖ふれし人の名残しのぶや

このあと、春歌は、柳・早蕨・桜・春雨・春駒~三月尽と続いていくのだが、当時の私の力量ではとても詠みおおせなかったのだろう。(今だって無理だ。)
しかも、正岡子規が見たら、古人の糟粕を嘗めまくった陳腐な歌と罵倒されそうなほど、安易なパクリが多い。
『古今集』『新古今集』『源氏物語』などの元ネタが丸わかりな上に、工夫や新味に乏しいのはあきれるほどである。

たとえば、「残雪」の歌は、
  ももちどりさへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく
                 (古今集・春上・28・よみ人しらず)
の本歌取りのつもりなのだろうが、今の私は、もうちょっとひねれよ!(怒)、と言いたくなる。

それでも、もしこの百首が最後まで完結していたら、それを見ておきたかったような気もする。