以前紹介した『ニーチェの警鐘』の著者、適菜収さんの新刊『日本をダメにしたB層の研究』(講談社)を読んだ。
世の中ウソばかりです。
デタラメな人々が、社会の第一線でデタラメなことを言っています。
B層は繰り返しその言葉に騙されます。
今、やらなければならないことはなにか?
それは先人の言葉を振り返ることです。
使い古された言葉を、愚直に何度も繰り返すことです。
危機に直面したら、先人に問うこと。
歴史はつねに同じことが繰り返されているからです。
(おわりに)
現代日本の、政治、社会、マスコミ、教育、文化…などの目を覆うばかりの惨状と混迷が、戦後われわれが無条件に信奉してきた民主主義・人権・平等などの近代的諸価値に起因することを説き、安易な「解決策」を戒め、長期的な視野に立って抵抗を続けるための処方箋を示している。
素人と玄人の境界が消滅し、知が軽視され無知が称揚される。権威を嫌う一方で権威に弱く、ジャンクな情報に流される。あらゆる価値が混乱する一方で、圧倒的な自信で浅薄な価値観を一方的に社会に押しつけようとする人々(=大衆)が多数を占めるようになる。
適菜さんの書いていることは、私もまさにその渦中におり、日々直面する現実ばかりなので、危機感をもって読んだ。
教育というのは人類の歴史とともに古く、本来なら伝統を重んじ、祖先からの叡智を保守し、その精神を現代に生かす営みでなければならないはず。それなのに実際は、古典教育が軽視され、すぐ役立ち、成果が出そうに見える方法がもてはやされたり、先人の実践や達成を安易に否定し学ばない風潮が支配的になっている。
子供達が喜ぶからといってジャンクフードばかり与える親がいないように、教師の役割は、成長期にある生徒・児童達に学力や教養や一生を通じて役立つ習慣・態度といった、血肉化する栄養を届けることだと思っているが、良心的な教育を志す者にはとって厳しい状況が今後も続くことを覚悟しつつ、少しでも現状を改善する努力を続けていくしかないな、と思う。
この本は手に取りやすいポップな装丁(黄色なのはやはり警告の意味?)だし、思わず笑える「B層用語事典」で始まるのもよい。(本当は「面白うてやがて悲しき」なのだが。)
【アーティスト】 ジャリタレのこと。
【シェフのきまぐれサラダ】 プロは「気まぐれ」に料理をつくるな。
【リセット】 ファミコン世代の三流政治家が使う言葉。
文章もとてもわかりやすく、深刻にも悲観的にもならずに現代日本の問題点とその背景を論じ、われわれがどのようにして対処すべきかを示していて、好感が持てた。この本を通して著者の学識だけでなく、ユーモアと健全な批判精神と心の強さを感じた。さっそく学級文庫に入れて、生徒にも勧めてみようかと思っている。