閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「まだかな まだかな」

2016-04-02 00:25:25 | お知らせ(新刊)

新刊絵本です。
『まだかな まだかな』(ポプラ社 2016年4月刊)

江頭路子(えがしらみちこ)さんの絵が、とにかく可愛いです。
水彩で描かれた動物も、人間も、
ふわっとやわらかくて、あったか~い。
その「やわらかいこども」たちが、それぞれに
「まだかな、まだかな」と、おかあさんを待っている。
そういう絵本です。

動物の親子の絵本をつくりたいなと思っていました。
2、3歳向けなので、複雑なストーリーは必要ないのです。
いろんな動物の「おかあさん」と「こども」が出てきて、
「おかあさーん」と呼ぶと「はーい」と答えてくれて。
ほとんどそれだけのシンプルな絵本。
流行に関係なく、斬新さも奇抜さも狙わず、
ごくごくオーソドックスな、誰でも安心して読めるような、
読んでにこっと笑えるような、そんな絵本にしたいと思いました。

原稿ができて、さて、これ、どこに持って行こうかな、と
考えたとき、まず浮かんだのが、P社のGさんでした。
(わたしは、ご依頼を受けて書くこともありますが、
勝手に書いて持ち込みというケースが多いです)

Gさんのお子さんがまだ小さかった頃。
夕方、会社から送られてくるメールの最後には、
よく「これからお迎えダッシュです!」と書かれていました。
そうか、お母さんを待ってる子どもの絵本は、
お迎えダッシュのお母さんの絵本でもあるんだな。
と思ったとき、この絵本の「かたち」が見えました。

絵をお願いした江頭さんは、お願いしてからわかったのですが、
ちょうどこれくらいのお嬢さんのいる現役のおかあさんでした。
やわらかさの中に、ぴちぴちと動いているいのち。
両手で抱えたときの、ぽてっとした重み。
いまこのときだからこそ描ける絵を、描いてくださったと思います。

「お迎えビリけつはイヤだ」と言って、おかあさんをいつも
走らせていたGさんの息子くんも、この春はもう高校生になるとか。
ほよほよと柔らかいひよこの時間はあっというまに過ぎ去るけれど、
子どもは、抱っこのできる年齢のうちに、一生ぶんの
親孝行をしてくれる…というのは、ほんとかもしれない、と思います。

 

 

表紙画像はいろんなところに出ているので、
裏表紙をお見せしておこうっと。

 

以下は、例によって舞台裏の話。
長いので、おひまな方だけお読みください。 

 

この絵本の「きっかけ」は、20何年か前にさかのぼります。
わが家の子どもが、2歳から3歳のころ。
いろんな動物に「なって」遊ぶのが好きでした。
図鑑を見たり、TVの動物番組などで、新しい知識を得ると、
まず自分がそれに「なって」みる。再現してみる。
どうしてもそうしないと気が済まない、という感じ。
そんな一時期がありました。

ようやくヒトになったかどうか、という幼児が、
ウサギに「なって」ぴょんぴょんはねるかと思えば、
キョウリュウに「なって」のしのし歩く。
特に教えたわけでもないのに、自発的にするのが不思議でした。
何なんだろう、この行動は。 

たとえば、ある日。
魚の図鑑で「ギンポ」がたいそう気に入ったらしく、
(ギンポ、ご存じない方は、画像検索してみてください。
穴の中に入ってるドジョウみたいなお魚!)
マットレスを立てかけてトンネル状にして、
その中にはらばいになり、にこにこと顔だけのぞかせ、
「Kちゃん(=自分のこと)ギンポの子どもね。
ギンポのおかーさーん。(と母を呼びつけ)
『ギンポの子どもはどこかなー』って言って!」

(と、毎度いちいちせりふまで細かく指示されるもんですから、
将来は演劇系のヒトになるんだろうかと思いましたが、
ぜんぜんそんなことはなかった) 

「ギンポの子どもはどこかなー、どこかなー」
と、そのへんを探すふりをしてやりますと、
穴の中のギンポの子どもは、
「ココダヨ、ココダヨ、うくくくく」と、
足をばたつかせて全身でよろこんでいるのでした。

幼児にとって、ヒトと、ヒト以外の動物とは、
おとなが思うほど違わない。いつでも、なりきれる、
入れ替われる、同じ世界の対等な存在なんですね。

そして、どんな動物でも、子どもは、待っている。
さがしてもらい、みつけてもらい、迎えにきてもらうのを待っている。
「まだかな」の不安と、「きた!」の安心を、繰り返し、積み重ねながら、
少しずつ育っていく。
そういうものかもしれません。

うちの「ギンポの子ども」も、その後は正しくヒトとしての道を歩んでおり、
いつまでもネタにされたり、ダシにされたり、メシのタネにされたりするのは
迷惑でしょうが、おかげでこの絵本ができたので、
「しょうがないなー」と思ってくれたまえ。

 

まだかな まだかな (はじめてえほん 12)
竹下文子・文
えがしら みちこ・絵
ポプラ社 2016年
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