閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「でんしゃがきた」

2013-09-21 12:42:51 | お知らせ(新刊)


新刊絵本です。

「でんしゃがきた」
竹下文子・作 鈴木まもる・絵 偕成社 2013年9月

表紙はひらくとこうなっています。

 「のりもの絵本」シリーズの8冊目。
1冊目の「ピン・ポン・バス」(1996年)から
次の「うみへいくピン・ポン・バス」(2004年)まで、8年もあいているのは、
最初はまったくシリーズの予定ではなかったからです。
そのあとは、

「はしれ!たくはいびん」(2005年)
「がんばれ!パトカー」(2007年)
「ざっくん!ショベルカー」(2008年)
「みんなで!どうろこうじ」(2010年)
「みんなで!いえをたてる」(2011年)

・・と、1~2年おきのペースできて、今年が8冊目。
ちょっとスタイルの違う「クレーン・クレーン」(1991年)と
「ぼくのしょうぼうしゃ」(1993年)も入れると10冊目になります。

こうなると、毎回、「次は何にする?」ということを考えます。
救急車、ごみ収集車等、リクエストもいただいていますが、
車だけでなく、このへんで電車も入れたい・・という編集者さんの意向で、
初めて電車が主役で登場することになりました。

電車といえば、子どもたちの一番人気は「しんかんせん」。
ですが、これが、わたくしはイマイチで・・。

機能優先のつるつる無機的なデザインとか、車内の密閉感とか、
キーンという耳障りな音とか、すれ違いの「びゅわーーっ!」とか、
そこがカッコよくてたまらないという子も多いだろうけど、
わたしにとっては、これは「物質転送装置」に限りなく近いもので、
乗っている間はじっとガマンしていて、なるべく早く降りたい。 
唯一いいと思うのは座席の前のテーブルだけ。
要するに、興味の糸口がさっぱり見当たらないのでした。

前にも書きましたが、子どもの本、特にこのシリーズのコンセプトは、
「子どもがよろこぶ、自分も面白い」です。
「自分が面白い、子どももよろこぶ(かもしれない)」・・かな?
自分が面白くないものを書いて、面白い本ができるはずがない。
というわけで、この企画は長いこと動きだしませんでした。

きっかけは、2011年、東日本大震災のすぐあとです。
九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開通したのは、3月12日。
震災直後という事情で、用意されたCMもほとんど流れずに終わりました。
インターネット上で話題になったので、ごらんになった方も多いかと思います。
沿線に人々が立って、通過する新幹線に向かって笑顔で手を振る・・
始点から終点まで、ただただそれだけをつないだ映像です。

(未見の方は、こちらでどうぞ。3分間のロングバージョン)

http://youtu.be/UNbJzCFgjnU


一方、震災の津波で壊滅的な被害を受けた岩手県の三陸鉄道。
(「あまちゃん」のオープニングで走ってる・・と言えばわかりやすいですか?)
北リアス線がようやく運行を再開したのは、翌2012年の4月のことでした。
こちらがそのときのPR動画。

http://youtu.be/_10s4j8wQKo


このふたつの「でんしゃ」が、頭の中で重なったときに、
(すみません、三陸鉄道のほうはディーゼルエンジンですが、
まとめて広義の「でんしゃ」の名称を使わせてもらっています)
そうか、電車って、これなんだ!と、すとんとわかった気がしたのでした。

「これなんだ」って・・「何」なんだ?
ということを全部書いていくと長く長ーくなるので、
ひとことでまとめると、

「でんしゃ」って、「ひと」なんだ!

・・まとめすぎた?

では、ここからはお時間のある方だけお読みください。

電車がバスと違うところは何でしょう。
バスより大きい。重い。力が強い。スピードが速い。おおぜい乗れる。
それだけ?
いちばん違うのは、線路を走ること、です。
頑丈な鉄のレールが、始点から終点まで、駅と駅とをつないでいる。
誰の目にも見える、手を出せばさわれる形で、物理的につながっている。
そこから、ゆるぎない信頼感と安定感がうまれます。

必要とする人がいるから線路が敷かれ、
乗る人がいるから駅がつくられ、電車が走る。
決まった時刻に、決まった駅に、決まったルートで電車がやってくる。
太陽や月の運行にも似たそのシステムの、すべてを考えたのは人で、
作ったのは人で、動かすのも人で、壊れたら直すのも人なんだ・・
ということ。

もうひとつ重要な特徴として、電車は何両も連結して走ります。
トレイン(列車)という言葉は、トレーニング(訓練)のtrainと同じで
(ウェディングドレスの長い裳裾のトレーンも同じね)
その語源は「ひっぱっていくこと」。
先頭車輛が、みんなをひき連れて、目的地までしっかり安全に導いていく。
それは、人間社会における「理想のリーダー像」と重なる。
(というのは例によって「閑猫説」ですが)

大きくて、力が強くて、スピードがあって、頼れるリーダー。
遠くまで連れていってくれる。未知の世界を見せてくれる。
子どもたちが本能的にひきつけられるのは、そこです。
「かっこいい」という言葉は、ものの形や機能を賞賛すると同時に、
それを作ったり動かしたりする能力のある「ひと=おとな」たちへの
尊敬とあこがれをあらわす言葉でもあるのです。


前作の「みんなで!いえをたてる」は、場所を固定して、
そこにいろんなお仕事の車がやってくる絵本にしました。
今回は、ページをめくるごとにいろんな場所に移動して、
いろんな「でんしゃ」が「きた」のを見る、という形にしました。
(だって、いろんなの、見たいでしょ?)
1つを除いて、すべての路線・車輛には実在のモデルがあります。
(ただ、写真のようにリアルに再現するのが目的ではないので、
実際と多少違っている部分もあることを、ねんのためお断りしておきます)

ラスト3場面は三陸鉄道です。
でも、文章には(他の場面もそうですが)地名も駅名も書いてありません。
「じしん」も「つなみ」も、ひとことも書いてありません。

震災の後も、台風や大雨があるたびに、土砂崩れで埋もれた線路、
橋脚を流された鉄橋、懸命の復旧工事を、たびたびニュースで目にしました。
いまも、日本の、世界のどこかに、なにかの原因で「こわれたせんろ」があって、
「いそいでなおす」人がいて、復旧を待ちわびる人がいるかもしれない。

時刻表どおりに電車がきて、ドアが開いて、ドアが閉まって、
乗りたい人がみんな乗れて、窓の外はいつもの見慣れた景色で・・
それがあたりまえと思える日常の幸せを伝えられたら。
「よかったね」と、小さくほっとして、しずかにページを閉じてもらえたら。
そんなふうに考えて、この絵本をつくりました。


そして、いつものことですが、
こういう絵本は文章より絵のほうが100倍もたいへんなので、
「描いた人」の話も合わせてお読みくださいませ。
こちらで。ちょこっと中ものぞけます。



以下、舞台裏。

その1
じつは、地下鉄の場面で、行先表示の駅名が間違っておりました。
たまたま、印刷所の営業の人が、その地下鉄で通勤している人で、
原画を見て気づいて教えてくれて、ぎりぎり修正まにあいました。
その人が営業担当でなかったら、あるいは他のところにお住まいだったら、
誰も気づかず、間違ったまま印刷製本されてしまうところでした。
あぶなかった~。
厚く感謝申し上げます。

その2
通勤ラッシュ時の混雑したホームの絵がありますが、
ここに描かれているのはすべて架空の人物です。(だそうです)
実在の人物(某社の社長さんとか)が何名かコッソリまぎれこんでいる
・・というのは単なるうわさなので信じないでください。

その3.
昔住んでいたマンションが描いてあってちょっとなつかしい(・・笑)

その4.
NHKの連続ドラマでおなじみになったらしい三陸鉄道ですが、
絵が完成したのは放映開始前でした。
うちではこのドラマを見たことがなく、たまたま目にして
「あら」と思ったのは夏ごろだったかな・・。

 

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