ケミストの日常

大学化学系教員の日々考えること。
HNはchem@uと省略してます。

日本産婦人科学会の示すヨウ素131の危険性

2011-04-25 17:31:42 | twitter
別記事にいただいたコメントより、日本産婦人科学会と言うところがあります。

産婦人科のお医者さんの集まる学会ですね。

被ばくを不安に思う妊産婦や若いお母さんからの不安が集中したのか、何度か放射線に対する「お知らせ」を掲載しています。

福島原子力発電所(福島原発)事故における放射線被曝時の妊娠婦人・授乳婦人へのヨウ化カリウム投与(甲状腺がん発症予防)について 2011/3/15

「被曝を受けた妊娠婦人ならびに授乳婦人」甲状腺がん発症のリスクとヨウ素剤の服用の目安を提示。

被曝線量が計 50,000 マイクロシーベルト(1.0 sievert [Sv] は1.0 Gy に相当する。1,000 マイクロシーベルトは1mGy に相当,文献1)以上の場合、50mgヨウ化カリウム錠2 錠(計100mg)を1 回服用する。


50mSvを甲状腺等価線量とすると、摂取基準の上限相当ですから、妥当とも言えます。

ただし、ヨウ素剤の服用で甲状腺に沈着しなかったヨウ素131は排泄され、その多くは母乳にも行きます。

それへの、注意勧告があってしかるべきでした。

福島原子力発電所(福島原発)事故のために被曝された、あるいはそのおそれがある妊娠中あるいは授乳中の女性のためのQ&A 2011/3/15

甲状腺がんの発症率が高くなります
被曝量が多いと甲状腺がんになりやすいとされています。
甲状腺がんになりやすくなる被曝量については50 ミリシーベルト(1 ミリシーベルトは1,000 マイクロシーベルトと同じ量ですので、マイクロシーベルトで表すと、50,000 マイクロシーベルト)以上とされています。


ここまではOK。

しかし、これは誤解。

例えば、時間当たりの被曝量が2,000 マイクロシーベルトの環境にいると、25時間で総被曝量が50,000 マイクロシーベルトとなり、甲状腺がん発症の危険が高くなります。

これは外部被ばくだから、大人でもせいぜい20gの甲状腺への影響は1mSv。

50mSv=50J/kg

50J/kg×0.02kg=1mSv

甲状腺への外部被ばくの影響って全身に対してと比較してホントに小さい。

甲状腺が小さい子供ならなおさら。
 ※ちゃんと理解してないことへの言及はやめておきます。

それでもちゃんとこういったことを示している。

妊娠中ならびに授乳中の女性にあっては、ヨウ化カリウムを服用しないで済むよう、特に被曝量を少なくする工夫が重要です。線源(ここでは福島原発)から離れること(遠隔地への移動)が可能な状況であれば、それをお勧めします。



それが3/16になって一変。

福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)

5km 以上離れたところに居住していた妊娠・授乳中女性へのご案内

実際に受けた被曝量は人体に影響を与えない低レベルのものです。


「平成 23 年3 月16 日15 時の状況」で内部被ばく量をきっちりと見積もっている例は一つも出ていないのに、なぜ根拠なく「安全宣言」を出せるのか、非常に疑問が残ります。

断片的な情報しかないにしても、まじめに周辺の線量を見てると、そんな悠長なことを言ってられないことはわかるのに。

実際にその後でてきたSPEEDIの結果ではかなり広い地域で100mSvの甲状腺被ばくの予想図が出されました。

多分、呼吸によるヨウ素131の内部被ばくについて、それなりの信頼性を持って出てきている図ってこれだけ。

それが、甲状腺等価線量とは何か、どのように計算されるのか、そういったことをわからない人たちが、うやむやに葬ってしまった。

その後。

水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内 2011/3/24

1kg 当たり200 ベクレル前後の放射性物質を含む水道水(軽度汚染水道水と表現します)を長期にわたって飲んだ場合の健康への影響について学会の見解を示します。

毎日(計280日間)1.0 リットル(1,000 ミリリットル)飲むと仮定した場合、妊娠女性がその間に軽度汚染水道水から受ける総被曝量は1,232 マイクロシーベルト(1.232 ミリシーベルト)と計算されます。


これは、残念ながら換算係数を大人の実効線量へのものを使っていますから、甲状腺被ばくの議論をする目的には滅茶苦茶な計算で、まさに「安全デマ」の最たるものと言っても過言ではありません。

実は似たような「安全デマ」はteam_nakagawaでもありました。

team_nakagawaヨウ素131解説の二面性

はっきりいえば、ほとんどのリスク管理の専門家も同じ間違いをしていました。

たとえば、私も面識があり、書籍も購入して一目をおいている松永和紀さんも実効線量で計算していました。

適切に怖がりつつ安心して食べるために~自分で計算しよう!

例えば、放射性ヨウ素が50,000Bq/kgのホウレンソウを1日に200g食べた時の計算をしてみます。

1日分は

50,000×0.022×【200g/1000g】=220μSv=0.22mSv

10日続ければ、2.2mSvの被ばくです


これ見て、なんだ放射線の害なんて大したことなさそうだ、と思った方は大勢いるのではないでしょうか。

実は、甲状腺等価線量では、この段階で既に44mSvになってしまいます。

大人ですらこの数値、子どもだったら?、と考えたら、悠長に「怖がりつつ安心」などと言える状況ではなかった。

真剣に吸気による内部被ばくと摂食による内部被ばくの推定を始めるべきだった。

売れないものを地産地消に回し子どもに食させた方もいたのでは、今の懸念事項です。

これは、上で具体例を出した3人・組織だけの問題ではなりません。

リスク管理に一家言を持つ方のほとんどの頭の中で極楽とんぼが飛んでいた。



そして、なぜ、突然、今になって、訂正を明示もせず、というのがわからないのですが、

大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内 (続報) 2011/4/18

不思議なことに、日本産婦人科学会、こちらでは、実効線量ではなく等価線量で計算しています。

当然、計算がかなりシビア(20倍シビア)なことになっています。

そしてこちらがリスク管理としては100%正しいのです。



つくづく思います。

3月の段階でこういった情報がちゃんと行き渡っていたら、混乱も大きかったと思いますが、無用な甲状腺被ばくをかなりの割合で避けられたはずです。

4月の半ばを過ぎての情報開示は、既にヨウ素131が自然減衰でどんどんなくなっている最中ですから、今後防げ得るヨウ素131も限られ、世間の注目もそれほど集まらなくなります。

汚染地産の野菜を買わないことに対して、過剰防衛との批判があります。

しかし、過去のコントロールしないまま受けた被ばくとのバランスを考えると、できるだけ今後のヨウ素131内部被ばくを避ける、というのは理にかなっています。



さて、なぜ日本全国そろってこんな大ポカをしてしまったのか。

日本で放射線の被害がでるような事故が起きるはずがない、という甘い先入観をリスク計算をする時に持っていなかったか。

我々は過去の内部被ばくの状況を大雑把にでも把握するよう努めるべきなのでしょうか?

それとも、「過ぎたこと」と過去の事実に目をつぶって、おまけにリスク管理に大ポカをやらかした事実にも触れずに済むように、放置すべきでしょうか?

今、世間の目がセシウムに移っているのが、まさに目をつぶってる、ように見えます。

それでも、せめて「触れない」くらいの配慮でもあればともかく、未だに、一か月前の間違った知識を振りかざしてる人たちがたくさんいるのが、非常に迷惑だったりします。
ジャンル:
ウェブログ
コメント (36)   この記事についてブログを書く
« 武田邦彦中部大学 教授 の... | トップ | SPEEDI結果が出てきたところで »
最近の画像もっと見る

36 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
日本全国そろってこんな大ポカ (takeshi6925)
2011-04-25 18:18:42
たびたびおじゃましてすみません。
ほぼ全面的に同感です、が、より深刻なのは、個人レベルだけでなく、専門機関・学会が公式ページで間違った情報を流し、訂正していないことだと思います。T先生と変わりありません。

核医学会
http://www.jsnm.org/japanese/11-03-25
「国際放射線防護委員会ICRP報告にあるとおり、約120,000 Bqの放射性ヨードが体内に入った状態(甲状腺線量0.020Gy程度)でも子供達の甲状腺癌発生が増加する危険はありません」

http://www.jsnm.org/japanese/11-03-28
「お子さんの体に入った放射性ヨウ素は1Bq当たりお子さんの甲状腺に約4.3x10-4 mSvの放射線を当てるとされています。」

放医研
http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i13
「長期間摂取し続けた場合でも甲状腺が受ける放射線量が1年当り50ミリシーベルト以下となるように決められています。
現時点ではあまり想定されませんが、例えば、300ベクレル/1リットルの水を大人が毎日2リットル、1ヶ月間飲み続けた場合、約400マイクロシーベルトの被ばくを受ける計算になります。」

日本産婦人科学界のアナウンスも、最初のはどこぞの権威学会の指導に従ったものでしょう。今回のは係数の使い方からも、独自の調査・理解によるものと思われます。多分、学会内外から入った突っ込みに応えたものでしょう。
長文失礼しました。今後とも応援しております。
Unknown (chem@u)
2011-04-25 18:31:57
いつも有用情報ありがとうございます。

T先生批判者には、是非こっちも批判してほしいですね。
ありがとうございます (木蓮)
2011-04-26 00:26:41
ツイッターから来ました。政府の反論に対する第三者の冷静なコメントをありがとうございます。とても参考になりました。これからも応援しております。
ブログ読んで安心しました (jamshidian_55)
2011-04-26 01:19:50
最近、セシウムばかりに目がいっている人が多いですね。同感です。
ヨウ素について、心配していただいている方がいて少し安心しました。
最も子供が影響を受け、そしてチェルノブイリでも唯一認められたガンを誘発するヨウ素による体内被曝。
時すでに遅しの感もありますが、今後少しでも被害が小さくなるよう、願っています。
ちなみにSPEEDIの最新結果がでていますが、小児の甲状腺等価線量から大人の外部被爆に変わっていました。
Unknown (chem@u)
2011-04-26 17:27:10
木蓮様 jamshidian_55様

コメントありがとうございます。少しでもお役にたてれば幸いです。

ところでSPEEDIは実はあんなもんじゃないって話題があったので、それを今日の記事にします。

ちょっと時間かかるかもしれませんが。
Unknown (akisamiyo)
2011-04-27 00:10:08
はじめまして。
時々お邪魔させていただいています。

ヨウ素は、半減期が短い事でそんなに心配ないというような説明や空気を無理やり流していたような気がしています。
北関東のうちの地方でも、ヨウ素はほとんど検出されなくなってきましたし、このまま発信した側もフェードアウト決め込む気なんでしょうか。
もう、過去には戻れませんからどうにもなりませんけど、各学会せめて訂正や注意喚起は続けてほしいものです

T先生(素人目に良くも悪くもですが)やteam_nakagawaの客観的な説明、とても参考になりました。

SPEEDIにしてもたくさんの研究費をだして育ててきた学者も国民の為でなく誰のためのシステム・研究なんでしょうね。
Unknown (chem@u)
2011-04-27 00:31:20
コメントありがとうございます。

あちこちに敵を作ってそうで、何かのきっかけで一斉の攻撃を受けそうな不安もありますが、とりあえず大御所の間違いも指摘する覚悟が出来ています(笑)

SPEEDIは「税金を無駄にさせないプロジェクト」勝手に始動中です。

http://blog.goo.ne.jp/chemist_at_univ/e/39a4aa3b5f9a3c943cfc45735d17a27c
Unknown (コンタン)
2011-04-27 00:54:01
松永和紀さんは信頼している書き手なんですが、この記事なんかも粗雑で、ちょっとがっかりです。
http://www.foocom.net/column/editor/3827/

皆さん、デマを鎮めたいと思うあまり、つい冷静さを失ってしまうのかもしれませんね。
Unknown (chem@u)
2011-04-27 01:10:21
コメントありがとうございます。

あらら、というのが私も正直な感想です。

一度TBも送ったし(これは無視されても仕方ないか)、ブログのコメ欄で岸本さんの記事のリンクも貼られているし、あれを理解できないほど鈍らになっちゃったのかな、とは思いたくないですが。

やっぱり自らの先入観を崩すのは難しいのかなあ。
Unknown (tenod)
2011-04-29 07:57:11
最近になって、読ませて頂いております。

内部被ばくの計算は大変、ためになりました。政府発表はある程度信頼してよいだろうと考えていましたが、考えを改めざるを得ないようですね。

こちらで揶揄されてしまっている、結論だけ求めるリテラシーの低い親だったと反省しました。正直、子供に対して申し訳が無く、はらわたが千切れる思いです。

今は、「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」を見ながら、計算をし始めたところです。このブログとは異なる値が出てしまうので、何が違うのか考えながらです。

分からないのが、3月25日ごろから新たな放射性物質の放出が無いのであれば、放射性ヨウ素は6%程度の量しか残っていない計算になりますが、これはどの程度、気にすれば良い量なのでしょうか?
いまさら、ヨウ素のことは心配するほどの量は残っていないと判断した方が良いのでしょうか?

コメントを投稿

twitter」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事