Chaotic-Love

【純情エゴイスト】が 好きな 遊び人
猫屋敷 かりん の 趣味 Blog です。

【 ダブル・タイフーン ~螺旋夜曲~ 】 act.3

2012年09月30日 | 【 * novel * 】
挙動不審な俺の態度に眉間のシワを増やしたヒロさんが、じっと俺を睨み付けてくる。
いくら睨まれても、俺にとってはヒロさんの首から下げられているリングがどうしても気になる訳で…。
動揺するなと言う方が無理な状況だろう。

「あ…あの…ヒロさん」

「何だ」

「……そのリング、どうしたんですか?」

「お前こそ、リングどうしたんだよ…? それに何だよ『ヒロさん』って?!」

「え?」

「何でいつもみたく『弘樹さん』って呼ばないんだよ?!」

ちょ…ちょっと待って下さい。 
ヒロさんは何を言ってるんだ?

まだ何か言おうとしてるヒロさんの声を遮るように電話のベルが鳴り響いた。
不機嫌な様子を隠そうともせず、乱暴な手つきで受話器を上げ

「はい、中條です。 何だ秋彦か、どうした?  うん───」

困惑する俺の前にいる『ヒロさん』は何て言った?
『中條です』って、名乗ったのは誰だ?
秋彦って宇佐見さんだよな。
いや、そんな事より目の前のヒロさんはヒロさんじゃ無いのか?

リングを見た時よりも激しい動悸が止まらない。

ヒロさんと瓜二つで、名前も『ヒロキ』だけど『ナカジョウ ヒロキ』って…。
いつもの通り、二人で暮らしてるマンションの一室のはずなのに
ここはどこで、俺は誰と一緒にいるんだろう。

ぐるぐる考え込んでる間に『ヒロキさん』の電話は終わったらしい。
気まずい時間が流れるのをどうにかしようと、声をかけてみた。

「「あ…あの」」

向こうも同じ考えだったらしく、見事にハモってしまった。

「オレから先に聴く。 お前の名前、言ってくれ」

何か祈るように、苦痛を耐えるように一言づつ『ヒロキさん』が言葉を絞り出してくる。

「野分です。 『草間 野分』です」

名前を告げると、『ヒロキさん』は泣き出しそうな顔になり、俯きながら

「オレは『中條 弘樹』だ…」

と、呟き そのままソファへ崩れるように座り込んだ。

不思議な事に、その名前を聴いて俺は心のどこかで安心したんだ。
違和感の正体…この人は『ヒロキさん』だけど『ヒロさん』じゃ無い。

根拠は無いが俺の『ヒロさん』はここにいないけど、必ずいるって確信があった。
『ヒロさんバカ』には自信がある。
何処に行けば良いのか解らないけど、必ず俺の『ヒロさん』の元へ帰らなきゃ。
その為には……。

「まずは状況整理しようか…。 オレは『中條 弘樹』で、オレの同居人は『風間 野分』だ」

「同居人…ですか。 俺の同居人は『上條 弘樹』さん、『ヒロさん』です」

「そうらしいな。 さっき秋彦から聞いた」

「宇佐見さんからですか?」

「宇佐見? 誰だそれ。 幼馴染の『藤堂 秋彦』だよ。
 どうやらお前と野分…『風間 野分』が入れ替わってるらしいんだ」

「入れ替わる? 俺が『風間さん』とですか?」

「そうだ。 信じられないだろうけど『こっちの世界』と、『お前のいた世界』が
 どこかで繋がってしまい、お前たちが入れ替わったらしいんだ」

「そんな事が現実にあるんですね…。 確かにあなたは俺の『ヒロさん』じゃ無いです」

「何か信じられないよな。 こんなにそっくりなのに別人だなんて」

「でも、あなたは俺の『ヒロさん』じゃ無いです。 そっくりだけど違います」

「そんなに似てるのか? 『上條』とオレ」

「戸惑うくらい、よく似ています」

「…だろうな。 オレも野分とお前、間違えたくらいだし」

ぽつりぽつりと、互いにお互いの『相手』を再確認するように語りだした。
おそらく『ヒロさん』となら、決して出来ないと思われる会話。

見た目も声も何もかもが『ヒロさん』と同じで、どこか違う『中條さん』と俺。
きっと『風間さん』と俺に対しても『中條さん』は俺と同じ様に考えてるだろう。

中條さんが唐突にソファから立ち上がり、冷蔵庫からビールを2缶取り出し
1缶を俺に手渡してくれた。

「飲めよ。 素面じゃ語り切れないかも知れないから、オレは飲むぞ」

よく冷えたビールを開け、ごくりと一口飲みこんで、ふっと溜息を付きながら

「オレと『上條』の違いって、何だろうな…?
 草間と『野分』が違うのは 分かるよ。」

「はい」

「『野分』はオレをずっと見ててくれたって言ってた。
 オレが大学生の時、付き合ってた彼女に振られたのも見られたしな。」

ぐっと白い喉を仰け反らせ、また一口ビールを煽りながら、中條さんは語り続けた。

「そんな情けない姿を見られてたのに、それでも野分はオレを好きだと言ってくれた。
 そして、オレにとっての『初恋』が野分だったんだ」

ほんのり目元を朱く染めて、中條さんは俺にも飲めと促してくる。
ビール1缶くらいじゃ酔わないけど、付き合う分には構わない。
片方だけが素面と言うのも失礼にあたるかも知れないな…この場合。

「なぁ、オレと上條ってどう違うんだ?」

「え? 中條さんとヒロさんの違い ですか?」

「そ、お前だって指輪見るまで気付かなかったんだろ?
 どんだけ似てるんだか、興味あるよ」

「分かりますよ。 雰囲気が違うのもありますけど、強いて挙げれば
 カンですね。」

「カン? 第六感とかってヤツか?」

「あ、カンって馬鹿にしたもんじゃ無いですよ?
 ヒロさんが言ってました。
 『カンってのは 今までの自分が体験した事や経験が蓄積された中から、
 無意識のデータが最適な答えを選び取るもんなんだ。』って」

俺の話を興味深そうに聴いてくる中條さん。
同じ顔、同じ声、同じ仕草、同じ反応…だけど違う。
目の前にいる人は『俺のヒロさん』じゃ無い。

「だから、ヒロさんと中條さんが どんなに同じに振舞ったとしても、
 俺 間違えません。」

「随分、自信あるんだな…」

「はい、『ヒロさんバカ』には自信がありますから。」

これは確信持って言える。
ヒロさんはヒロさんだから、ヒロさんなんだ。

「それに、間違えようが無いんです。」

ビールで喉を潤しながら、俺も話し続ける。

「俺が好きな『ヒロさん』は彼だけです」

「初めてヒロさんに逢った時、ヒロさんは『何かを失って』泣いていました。
 俺はその泣き顔に惚れたんです。

 中條さんも『ヒロキさん』ですけど、俺の『ヒロさん』じゃ無いし
 俺も中條さんの『のわき』じゃ無い。」

「『失ったもの』が何かはヒロさんから聞いた事はありません。
 何となく分かるけど、俺はヒロさんが話してくれるまで聞く事は無いです。
 でも…それを含めて 俺は『ヒロさん』が好きなんです。」

「そっか…」

「それに外見は恐ろしい程 そっくりなんですけど、何て言えばいいのかな…
 中條さんには『ヒロさん』には無い『柔らかさ』があるんです。
 あ、ヒロさんがキツいとかじゃ無いですよ?

 ヒロさんは自分にも他人にも厳しさを持っていますが、厳しいだけじゃ無いです。
 厳しくする為の優しさと、他人の心を守る為の強さを持っています」

「強さ?」

「それが、どれほど自分自身を傷つけても、相手に悟らせない強さ…
 本当は そんな強さなんか見せないで欲しいです。
 もっと、俺を頼って欲しい。
 いえ、頼られる程の人間にならないとダメなんだと思っています。」

「のろけやがって…」

中條さんが溜息を付きながら、ぐいっと缶を空ける。

「オレだって野分に頼られるような、せめて…迷惑かけないようにしたいよ」

「風間さんが俺に似てるのなら、きっと風間さんは中條さんを大切に想ってます。
 保証しますよ」

「ぬかせ、バーカ」

「あ、ヒドいです」
 
酔いが回ったのか、トスっと中條さんがソファに横たわり、俺に手を伸ばしてきた。
渡された空き缶を受け取る時に、初めてお互いの手が触れた。

俺の手に触れながら、中條さんはどこか遠くを見るように呟いた。

「野分の手は熱くて、優しい…。 草間の手は暖かくて、大きい。
 野分と草間の違いは 多分この『温度』なんだろうな」

「温度…ですか?」

「そう、温度。 熱いんだよ、野分の手は…」


ヒロさん相手なら決して出来ないであろう、そんな取り止めの無い「惚気話」を交えながら
台風の夜は少しづつ過ぎていった───


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「930の日」です!

1年ぶりの更新になりました。
生きてます←
まだ続きます←←

また来年お会いしましょう!←
(↑開き直ったらしい…)
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