元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アンナと過ごした4日間」

2009-12-22 06:35:51 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Cztery noce z Anna)ひたすら暗いだけの映画である。孤独な中年男が、家の向かいの看護婦寮に住むアンナに興味を持ち、ついには4日間の無断家宅侵入に至るという話。ポーランドの名匠と言われるイエジー・スコリモフスキ監督の17年ぶりの新作だが、私は彼の映画を観たことはなく、どういうスタイルを持っているのか不明だ。しかし本作を観る限り、大した力量とは思えない。

 相手の女が寝入っているところへ忍び込んで、意味不明な振る舞いをする中年男の話といえば、まず思い出すのは若松孝二監督の「水のないプール」(82年)だろう。鬱屈した日々を送る地下鉄職員が、夜な夜な若い女の部屋に侵入しては妙な行動を取るという設定の映画だが、主人公役の内田裕也の飄々とした持ち味と乾いたユーモアが画面を横溢し、アナーキーでありながら愛嬌のある快作に仕上がっていた。対して本作は愛嬌のカケラもない。

 主人公のレオン(アルトゥール・ステランコ)の行動はすべて“語るに落ちる”ものだ。私生児であり、孤独であり、コミュニケーション不全であり、だから他人と心を通わせることが出来ず、気になる異性に対しても及び腰の態度しか取れない。自分のつまらなさを自覚してはいるが、何とかしようとするほど甲斐性があるわけでもない。見ていて鬱陶しいだけだ。

 もちろん、ダメな奴を主役にしてはイケナイという決まりはなく、撮りようによってはいくらでも映画的興趣が出てくる。しかしこの映画はそのあたりが決定的に欠けている。つまらん奴をカメラがただつまらなく追っただけだ。

 血塗られた手首や川を流れていく牛の死骸とかいった禍々しいイメージが積み上げられるが、それらは単に奇を衒ったものとしか思えない。さらにはヘリコプターの轟音とか疾走する救急車のサイレンといった、思わせぶりなサウンドも出てくるが、何の効果もない。作者の自己満足に終わっている。寒村の荒涼とした雰囲気は良く出ているが、取り立てて評価出来るほどの映像ではない。一部時制をバラバラにする“小細工”も見受けられるものの、まったくの不発に終わっている。要するに、観る価値のない映画だ。

 なお、本作の配給は紀伊国屋書店が担当している。どうして配給業に乗り出そうとしたのかは不明だが、エンドユーザーに対する映像ソフトの販売元がこの世界に参入してくるのは、ちょっと面白いと思った。同業他社も参入すれば興味深い展開になるのではないだろうか。

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