元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ナルコ」

2007-11-25 07:41:33 | 映画の感想(な行)

 (原題:Narco )感心するような出来ではないが、ちょっと気の利いた佳作と言えよう。ナルコレプシーという病気で、時と場所を問わず突発的に眠りに落ちてしまう男を主人公にしたフランス製コメディだが、面白いのは“イレギュラーな存在である彼自身と実世界とのギャップをベースに笑わせる”という常套手段を取っていないこと。

 彼の周りは決してノーマルではなく、けっこう異様である。それならば主人公と現実社会との落差が生じてこないではないか・・・・ということは決して無く、周囲の方が主人公よりはるかに常軌を逸しているように描かれている。つまりは“単にイレギュラー”と“さらにイレギュラー”との落差で笑いを狙おうというのだ。

 主人公が味わうどん底感のさらに下に、またどん底があったという、シニカルで痛々しい構図。これを嫌味やわざとらしい説明的シークエンスを巧妙に避けてドラマを最後まで引っ張っていくトリスタン・オリエ&ジル・ルルーシュ監督の腕前は、けっこう非凡かもしれない。

 ナルコレプシーに冒されているギョーム・カネ扮するギュスという男は、大事なところで眠り込んでしまうため、まともに仕事も出来ない。そのため夢の中の出来事を漫画にして売ろうと考えるが、これも窮余の策でしかなく、本当は一般世間並みの平凡な暮らしをしたいのだ。

 ところが彼の父は女房に逃げられたほどの現実逃避型のオタクだったし、妻は自堕落そのもので、空手道場をやっている親友は誇大妄想気味、担当の精神分析医に至っては狂気の世界に一直線だ。ところ構わず眠ってしまうことを除いて、まったくの正常である主人公に比べると、おかしな夢を追っているという意味で本当に“眠って”いるのは彼らであるという逆転の図式。しかも、彼らの病み方が観ている側にも少し共感するところがある点も実にキツい。

 そして“まともな生活”の方が、刹那的で自堕落な生き方よりも将来を展望できる“夢”をたくさん見られるといった正論が、こういう設定であるからこそ無理なく伝わってくる。これを平易な展開の中で叫ばれたのでは臭くて見ていられなかっただろう。

 出てくるキャラクターはみんな濃くて笑わせてくれるが、驚いたのは主人公の親友の自称“空手家”の心のスターであるジャン=クロード・ヴァン・ダムが本人役でゲスト出演しているところ。ハリウッド製B級活劇で見かけることが多い彼だが、本来は由緒正しいヨーロッパの俳優であることを再認識出来た(笑)。

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