元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マーティン・エデン」

2020-12-11 06:28:18 | 映画の感想(ま行)
 (原題:MARTIN EDEN )キャストの仕事ぶりは良い。文芸大作の雰囲気も備わっている。しかしながら、内容はピンと来ない。脚本が精査されておらず、後半の展開には整合性を欠く。また、何を描きたいのか、物語の重要ポイントが定まっていない印象を受けた。アメリカの作家の小説をイタリアに置き換えて映画化している点も影響しているのかもしれない。

 ナポリの労働者地区に生まれ、粗野な船乗り稼業に明け暮れていた青年マーティンは、ある日上流階級の娘エレナと出会って恋に落ちる。文学好きのエレナの歓心を得ようとして、彼は独学で作家を志すようになる。しかし、ロクに学校にも行っていなかったマーティンにとって、物書きになるハードルは高い。それでも、不屈の闘志と多大な努力の甲斐あって、ようやく認められるようになる。だが、高まる名声とは裏腹に私生活は満たされないままだった。冒険小説「野性の呼び声」などで知られる、ジャック・ロンドンの自伝的小説の映画化だ。



 まず、時代設定が明らかにされていないのには参った。たぶん20世紀の初めだと思うし、原作を読んでいる者は承知しているのかもしれないが、時制の明示は映画にとって大事なことだ。とはいえセットは凝っているし、重量感もある。大きな瑕疵とは言えないだろう。だが、荒仕事に携わっていたマーティンが、エレナと知り合うことによって一念発起して作家を目指すという筋書きは悪くないものの、そのプロセスがどうにも要領を欠く。

 彼には基礎的教養が不足していることは分かるが、その他小説家として身を立てる上で何が足りず、それをどういう具合で克服していったのか、そのあたりが映画では描かれていない。特に中盤を過ぎてから描写不足の傾向が強くなり、大雑把に話が飛んでストーリーが掴めなくなる。何やら、主人公はいつの間にか成功して、いつの間にか屈託を抱えて、いつの間にかああいう結末を迎えるという案配で、観ていてアピールしてくるものが無いのだ。上映時間は2時間ほどだが、やたら長く感じられた。

 ピエトロ・マルチェッロの演出は一本調子で、メリハリが感じられない。ただ、主演のルカ・マリネッリは良い。個性的な二枚目で、演技に力感がみなぎっている。2019年のヴェネツッィア国際映画祭で男優賞を獲得しているが、それも納得だ。相手役のジェシカ・クレッシーも品のある美人だ。撮影と音楽は悪くない。ジャック・ロンドンを良く知っている観客ならば、楽しめるのかもしれない。

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