(原題:Backdraft )91年作品。シカゴ消防署員の活躍を描くロン・ハワード監督作。題名の“バックドラフト”とは、火事によって酸素が使い果たされ、燃えない自然ガスが充満している室内に入るときに起こる、爆発による逆気流現象のこと。
物語は父や兄(カート・ラッセル)と同じく消防士の道に飛び込んだ主人公(ウィリアム・ボールドウィン)を中心に展開し、それに消防署の合理化をもくろむ市会議員や放火事件を追う調査官(ロバート・デニーロ)らがからむ。
圧倒されるのが火災現場のスペクタクル・シーンである。まったくどうやって撮ったのかわからないぐらい実写とSFXの合成がうまくいっており(ジョージ・ルーカス傘下のILMが全面的バックアップ)、すさまじい映像の迫力を生んでいる。特に素晴らしかったのは炎の描写で、多数の人命を奪う恐ろしさを強調しつつも、そこにうっとりと見とれるような美しさをも表現しており、狂気の放火常習犯(ドナルド・サザーランド)が火事に魅せられるのも無理はないと思った。毎回危機一髪の修羅場を乗り越える消防署員の命知らずの働きぶりも見ものだ。
しかし、満点の出来とはいえない。主人公の兄の別れた妻子を描くシーンになると、どうも演出がパッとしなくなる。これは主人公のかつての恋人を描くくだりも同様で、女性の描き方がいま一歩の感ある。さらに、市会議員のスキャンダルうんぬんの部分は、明らかに物語をひねり過ぎで、ここはバッサリ切って消防士だけのドラマにした方が数段よかったといえる。ラストもちょっとくどく感じるところもあった。
とはいっても、映画史上に残るほどの素晴らしいサウンド・デザイン(ひところAVフェアのデモに頻繁に使われていたほど)も含めて、観て損はしない映画だ。