元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「風に濡れた女」

2017-01-08 06:23:50 | 映画の感想(か行)

 映画としてはつまらないのだが、主演女優の存在感により何とか最後まで観ていられた。現役の監督たちが新作ロマンポルノを手掛ける“日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”の第二弾で、監督は塩田明彦。若手俳優の扱いには定評のある同監督の持ち味は、ここでも何とか発揮されている。

 主人公の高介は東京の演劇シーンでは少しは名の知られた舞台演出家だったが、スランプに陥って逃げるように都会を離れ、今は茨城県の片田舎で山小屋に住み、世捨て人のような生活を送っている。ある日、リアカーを引いて海辺を歩いていた彼は、人前で平気で濡れた肢体をさらけ出す風変わりな若い女と出会う。

 彼女は高介に今晩泊めてほしいと言い寄ってくるが、素性の知れない女を相手にする高介ではなかった。ところが、別の日に生活物資調達のため懇意にしている喫茶店に出向くと、くだんの女がウェイトレスとして働いていた。高介と再会したその女・汐里は、これ幸いと彼の生活に土足で踏み込んでくる。

 正直言って、主人公の境遇には興味を持てない。演劇人の懊悩だの何だのといったことは、当方には関係ないことだ。中盤で東京で高介と一緒に仕事をしていたと思われる女演出家とその仲間が彼を連れ戻そうと乗り込んでくるが、結局は何しに来たのかわからないし、彼らが勝手に行う“舞台稽古”みたいなものも、場違いでしかない。どうやら高介が東京を離れた背景には奔放な異性関係があったらしいが、それが映画的興趣に繋がっているかというと、全くそうではない。喫茶店のマスターに関する不倫話なんか、退屈なだけだ。

 しかしながら、汐里を演じる間宮夕貴が画面の真ん中に居座り始めると、映画が弾んでくる。脱ぎっぷりの良さもさることながら、クソ生意気で不貞不貞しい態度が実に好ましい(笑)。往年のロマンポルノの主人公達とも通じる、身体一つで何もかも引き受けてしまう潔さが横溢し、画面から目が離せなくなる。嵐のように高介をはじめとする登場人物一同を引っかき回し、いつの間にか去って行くヒロイン像に、作者の破れかぶれの開き直りが投影されているあたりが興味深い。

 高介に扮する永岡佑をはじめ、鈴木美智子、中谷仁美、加藤貴宏といった出演陣もまあ悪くはないのだが、主役の間宮によるインパクトの前では影が薄くなる。きだしゅんすけによる音楽も面白い。

 なお、本作はロマンポルノ作品として初めて第69回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、若手審査員賞を受賞している。日本の成人映画の国際映画祭への出品は過去に何度かあったが、そういう方策は悪くないと思う。今後とも適当な作品があれば、どんどん海外のフェスティバルに出しても良いだろう。

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