元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウルフ」

2008-09-12 06:38:15 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Wolf)94年作品。「卒業」(67年)から「ワーキング・ガール」(88年)まで芸歴も守備範囲も広いマイク・ニコルズ監督は、こういうホラーものも撮っていた。雪道で狼に咬まれた大手出版者の編集局長(ニコルソン)はその日から身体に変調をきたす。五感のすべてが鋭敏になり、全身にパワーがみなぎる。彼は永年勤めていた職場をかつての部下(ジェームズ・スペーダー)に奪われ、妻(ケイト・ネリガン)は浮気に走り人生の窮地にいたが、驚異の“狼パワー”で反撃に転ずる。ポストを取り戻し、社長の娘(ミシェール・ファイファー)といい仲になるが、次第に狼に近づいていく自分が恐ろしくなる。

 予想されていたハデな変身シーンやSFXで目をくらませるアクションもなし(ま、ニコルソンならノーメイクで狼男が演じられるけどね)。展開がある程度読めるハリウッド映画の中では珍しく屈折したストーリーだ。外見的なコケおどしはほどほどに、映画は人間以外のものに蝕まれていく主人公の理性の葛藤をけっこうドラマティックに描いている。アイデンティティの崩壊を体現化するニコルソンの演技はやはりたいしたものだ。

 映画はこれにラブ・ストーリーをからませることにより、甘やかな雰囲気を作り出すことに成功、作品にポピュラリティを与えている。それにしてもこの頃のファイファーの美しいこと。感心した(アメリカの女優では一番好きだった)。

 クローネンバーグとかティム・バートンあたりがこういう題材を選ぶと、神経症的な憂鬱さとかオタクっぽい雰囲気が全篇を覆うところだが、ニコルズは万人受けする娯楽路線を最後まで崩さない。でも、ラスト近くの狼男同士の格闘シーンはやっぱりハリウッド製ホラー劇では欠かせないものだろうが、ちょっとシラけたことも確か。エンニオ・モリコーネの音楽は適切で合格点。

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