元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「プロヴァンス物語 マルセルの夏」

2014-01-07 06:36:39 | 映画の感想(は行)
 (原題:La Gloire de mon Pere )90年作品。間違いなくこの時期のフランス映画を代表する秀作だ。「愛と宿命の泉」の原作者としても知られるフランスの国民的作家マルセル・パニョルの自伝的大河小説「少年時代の思い出」の一部をベテラン監督、イヴ・ロベールが構想20年の後に映画化。19世紀末から20世紀初頭の南仏プロヴァンスを舞台に、主人公の少年マルセルが両親や友人たちと過ごした夢のような夏休みを描く。

 ドラマティックな出来事は何も起こらない。土地の少年リリとの出会いがあり、合理主義者の父親と敬虔なクリスチャンの親戚たちとの対立がある。でも、それらが物語の大きなポイントになることはない。



 ここに描かれるのは、あくまでマルセルの一家の思い出に過ぎない。しかし、実際に自身が見たことがなくても、経験がなくてもかまわない。おそらくは人種や年齢を超えて普遍性を獲得するような原風景、原体験とでも呼ぶべきものをロベールは映画を通じて発見していくのである。

 例えばラストに“時が止まったかに見えても、夏は息絶える”というモノローグがある。ここで観客一人一人が自らの幼少時代の夏休みを思い浮かべるなら、そのセリフは単なる状況説明以上の価値をもたらす。最初のうちは永遠のように感じられた夏休みも、8月も押し詰まった頃になると、残りの日数ばかり気にかかる。少しづつ夜風に秋の気配が感じられ、文字通り夏が息絶えようとしているのである。

 時は無情に流れるばかりで、世の中も人間も変わっていく。そんな中で数々の思い出が失われていくとしても、この作品にはまだまだそんな豊饒な記憶が溢れている。そしてそれは誰の心にとっても“いつでも回帰出来る風景”であるに違いない。キャストは馴染みの無い名前ばかりだが、いずれも好演だ。

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