元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

東野圭吾「容疑者Xの献身」

2008-09-10 06:45:45 | 読書感想文
 この作者の小説は何冊か読んでいる。しかし“これは本当に読み応えがあった!”と思ったことはない。確かに読みやすい文体だ。内容に重みや才気走ったところはないがスラスラと何のストレスもなく読める。旅行する際に乗り物の中でヒマを潰すのにはピッタリで、いわば一時期の西村京太郎や赤川次郎などと(作風は違えど)同じ位置にいる作家だと思っていた。そんな東野圭吾が意外にも直木賞を取ってしまったのが本作だ。少しは面白いのかと思って手にしてみたが、読後の感想は実に虚しいものだった。

 テレビでお馴染みの「ガリレオ」シリーズの長編版。天才数学者でありながら高校教師の座に甘んじる石神は、アパートの隣の部屋に住む女に片想いしている。ある晩、付きまとうロクデナシの元夫を殺してしまった彼女に犯行隠蔽を持ちかけ、得意の論理的思考で巧妙なトリックを編み出す。彼に対峙するのが石神の大学時代の友人で「ガリレオ」こと天才物理学者の湯川。天才同士の虚々実々の駆け引きが展開される・・・・というのが本作のウリらしい。

 この小説がダメなのは、何といっても登場人物にまったく魅力がないことだ。くだんの女には男を惹きつけるポイントが見当たらない。元銀座のホステスだから美人だとは想像できるが、中身がカラッポだ。ただの“記号”に過ぎない。もちろん“記号”でも構わないのだが、少しでもいいからギラリとした蠱惑的な雰囲気を漂わせる一瞬がなければ、ただ“隣に住んでいる”というだけではオクテの石神でも惚れないだろう。殺される元夫にしても型どおりのダメ男でしかない。

 さらに致命的なのは石神と湯川に天才ならではの凄みが感じられないこと。なるほど石神が仕掛ける筋書きは手が込んでいて、ラスト近くの種明かしには“ほほう”と感心はさせられるが、どう考えても一般人が頭をひねって編み出したというレベルだ。それを“実行”してしまう石神もある意味スゴイのかもしれないが、そこだけで“天才の異形ぶり”をアピールするには物足りない。湯川にしても、ただのカッコつけた若作りのオヤジにしか思えず、天才たる切れ味やエキセントリックさを見せつけることはない。

 ハッキリ言って、天才を本気で描こうと思うならば、書く側も天才かそれに近い領域にいる者でないと務まらないのではないか(それが無理ならば完全に突き放して捉えるしかない)。小器用な流行作家の東野ではまったくの力不足だろう。映画化もされたが、スタッフやキャストの顔ぶれからして観る気を無くす。凡庸な原作を“ちゃぶ台返し”してやろうという気概も感じられない陣容だ。テレビドラマのネタで十分な素材だと思う。

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