元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「THE GUILTY/ギルティ」

2019-04-15 06:26:00 | 映画の感想(英数)
 (原題:DEN SKYLDIGE)ワン・アイデアの作品ながら、よく考えれば欠点もある。しかし独特の雰囲気は捨てがたく、個人的に思い詰まされる箇所もあるので、印象は悪くない。観る価値のある北欧発の佳作だ。

 デンマークの地方の警察署に勤めるアスガー・ホルムは、業務上で問題を起こし、取り敢えず第一線を退いて緊急通報司令室のオペレーター業務に就いている。そんなある日、前科者の夫に子供と一緒に誘拐されたという女性の通報を受ける。最初は相手の言い分を疑っていたアスガーだが、切迫した様子と理路整然とした状況報告により、これは重大事件であると認識。通話内容と受話器から漏れる音だけを頼りに、アスガーは事件を解決しようとする。



 カメラは狭い司令室の中からほとんど出ず、登場人物も(複数の通話相手を除けば)実質的にアスガーだけだ。それでも事件の展開はドラマティックで、二転三転する様相にアスガーの引きつった表情が大写しになる。限定された状況でサスペンスを盛り上げようという狙いは、成功しているようだ。

 それでも、後半の筋書きが御都合主義だったり、主なプロットが会話に準拠していて、音の方はあまりクローズアップされていないのは不満だ。しかし決して飽きさせないのは、観ている私にも似たような経験があるからだ。・・・・といっても、何もヤバい事件に関与したわけではない(笑)。

 私は若い頃、顧客からの注文を電話で受け付ける仕事を一時期やっていたことがあり、厄介な案件にブチ当たってしまうこともあった。その場合、周囲を見渡しても同僚や上司は自身の業務で手一杯だし、アドバイスを得ようと関係部署に電話しても木で鼻を括ったような返事しか貰えない。そんな時に限って相手の話は終わらずに、こちらの終業時刻を過ぎても電話を切らない。映画を観ている間にその際に味わった焦燥感が蘇ってきて、思わず苦笑してしまった。

 グスタフ・モーラーの演出は粘り強く、最後まで弛緩することはない。ヤコブ・セーダーグレンの演技はなかなかのもので、正義感はあるが自らも脛に傷を持っている複雑な人物像を上手く表現していた。ジャスパー・スパニングのカメラによる寒色系の映像も印象的だ。第34回サンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど、評価が高いのも頷ける。

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