(原題:PERFUME: THE STORY OF A MURDERER)。これはダメだ。悪臭たちこめる18世紀フランスを舞台に、不遇な生い立ちでありながら驚異的な嗅覚を持つ主人公が、天才香水調合師として究極の芳香を追求すべく、次々に殺人に手を染めてゆくさまを描く時代物だが、肝心の“嗅覚の映像化”がまるでなっていない。単にヒクヒクさせた鼻をアップで映して、それが感じ取っているであろう対象を漫然と示すだけ。芳香のために殺人さえ厭わない主人公である。それが圧倒的なエロティシズムと共に扇情的に観ている側に伝わってこないと何もならないだろう。
さらに思わせぶりに香水のビンの口なんかを大写しにするものの、ただ“エロティックな感じを出そうとしているのだろうなあ”との感想しか持てず。問答無用で芳香の性的な世界へ誘う仕掛けも覚悟も何も無し。殺人の場面もサスペンス不在。
監督のドイツ人トム・ティクヴァは明らかに人選ミスだ。彼は「ラン・ローラ・ラン」みたいな明確な絵解きを身上としているようで、本作のような理屈抜きのセンセーショナリズムを喚起させないと話にならないネタにはまるで不向きである。ラスト近くの処刑場のシーンなんて、エロさ大爆発のスペクタクルにならなきゃいけないのに、ただ平板な情景が書き割りのセットのごとく芸もなく並んでいるだけで大いに盛り下がる。
ならばストーリー展開は面白いのかと言えばそうでもなく、芸のない紙芝居のような語るに落ちる話を愚直に追っているだけ。結末の付け方も“なんじゃこりゃ”である。舞台セットだけは大層立派だが、ヨーロッパのスタッフが関わっているにもかかわらずセリフが英語であるのは興ざめだ。
唯一楽しめたのはティクヴァ自身による流麗な音楽で、これをサイモン・ラトル&ベルリン・フィルという超豪華版の演奏者にやらせている。サントラ盤のみオススメというところか。
トラックバックさせていただきました。
意見は違うけれど、よかったら読みに来てください。
元副会長さんの記事は、批判ながらも大変、的を得ていてその通りだと思いました。
私とは観点が違うだけで、そのように観ればそうなんですよね。
しかも、サントラまでよく聴いていらっしゃって…。
その点でも、私よりよく観ていらっしゃったんだなって思います。
私は音楽がまったく耳に残ってないんですよ。(笑)
全ての映画に対してではないんですが、「パフューム」に関しては、ひたすら目で追ってたんだと思います。
感心したのがダスティン・ホフマンの店がある建物の造型。橋の上に長屋(?)みたいなのがあるという、セットにしてはえらく奇態でで面白かったです。どことなく「ポンヌフの恋人」を思い出してしまいました。
それでは、今後とも宜しくお願いします。