元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フォー・ザ・ボーイズ」

2006-02-03 06:47:41 | 映画の感想(は行)
 91年作品。第二次世界大戦中のロンドンの軍隊慰問ショーで知り合った人気コメディアンのエディ(ジェームズ・カーン)と歌手ディクシー(ベット・ミドラー)。2人はそれから50年もの間、ショー・ビジネスの世界で活躍する。そして長年のエディとの名コンビに対する全米芸術勲章の授与式を目前に、ディクシーは自らの波乱に富んだ生きざまを語り始める。

 監督は「黄昏」(81年)などのマーク・ライデル。原案はミドラー自身で、プロデュースも担当している。

 3つの戦争を背景にしたラブ・ストーリーであるとともに、音楽とショー・ビジネスの変遷でアメリカの歴史をも描いている。絶対悪であるナチス打倒の大義名分があった正義の戦い、兵士たちは礼儀正しい英雄であった第二次大戦から、共産主義と敵対した朝鮮戦争とマッカーシズムの50年代、そして得るものが何もなかったベトナム戦争と、アメリカが大国の地位から滑り落ちていく過程を背景に、夫を亡くしたディクシーと、妻と不仲のエディとの恋人同士とも友情ともつかない関係が綴られていく。その中で、戦争の不条理と愛国心、ヒューマニズムが巧みに語られ、上映時間2時間半も少しも長く感じられない。

 そしてやはり見物はミドラーのステージングで、冒頭の停電になった舞台で懐中電灯のあかりだけで歌う“PS.アイ・ラブ・ユー”、ベトナムの最前線で熱唱するビートルズの“イン・マイ・ライフ”、相変わらずの歌唱力にうなってしまう。

 このように“うまい映画”ではあるが“感動できる映画”かというと、物足りない。ライデル監督の演出はソツがないが、ソツがなさすぎて面白味に欠ける。すべてが予定調和なのだ。いろいろ辛いこともあったけど、人生捨てたものではない、といった結末はいいとしても、もうちょっと観る者を圧倒するような仕掛けや思い切った演出ができなかったのだろうか。

 ライデル監督とミドラーのコンビといえばジャニス・ジョプリンをモデルにした「ローズ」(79年)を思い出す。これは凄い映画だった。ミドラーの迫真の演技と素晴らしい熱唱、ライデルのたたみかける演出で圧巻だった。映画ファンとしてはどうしても比べたくなるが、やはり今回の作品はイマイチこちらに迫ってくるものがない。

 日本を舞台にしたシーンの珍妙さや、ラストの老いた2人(凝ったメイクアップだ)の少々鼻につくクサイ演技にはちょっとげんなりしたせいもあり、絶対のおススメとは言えないが、とりあえずは観て損はしない作品だとは思う。題名の“ボーイズ”とは、たぶん兵隊たちのことを示しているのだろう。

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