元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「人生万歳!」

2011-03-13 06:51:51 | 映画の感想(さ行)

 (原題:WHATEVER WORKS)お笑い映画の優れた作り手として一世を風靡していた頃のウディ・アレンの持ち味が戻ってきたような快作だ。それもそのはずで、この作品の脚本はアレンが70年代半ばに書いたものらしい。ちょうどアカデミー賞を獲得した「アニー・ホール」を手掛けた頃だ。内面的屈折よりも、まずは観客を楽しませることをメインにした作劇で、広範囲な観客層に対するアピール度が高い。

 かつてノーベル賞候補にもなった天才物理学者のボリスは、人生の無意味さを悟って自殺を図るが失敗。金持ちの娘であった妻とも離婚し、地位や財産も捨て、老境に至った今はニューヨークの下町のオンボロアパートで悠々自適の一人暮らしを楽しんでいた。ところがある日、ミシシッピ州から出てきたという若い娘メロディが転がり込んでくる。

 無学だが明るく怖い物知らずの彼女のキャラクターに惹かれたボリスは、年の差も考えずに結婚してしまう。二人はそれなりに楽しい日々を送るが、そこにメロディの母親と父親が相次いでやってくる。もちろん、若い娘が年寄りと一緒になったことを面白く思うわけもなく、仲を引き裂こうとあの手この手を繰り出すうちに、事態はワケの分からない方向へと進んでいく。

 ラリー・デヴィッド扮するボリスは小理屈ばかりをこねる皮肉屋で、明らかにアレンを投影したキャラクターだ。しかも、観客に向かって得々と演説を披露するという“禁じ手”も披露。周りの登場人物が“アイツは誰に向かって話してるんだ”と訝るシーンも挿入され、つまりは“インテリぶった奴が空気を読めずに浮いている”というギャグをかましているわけだが、これを嫌味にならずにサラッと仕上げてしまうあたりがアレンの真骨頂だ。

 南部の敬虔なキリスト教徒を代表するようなメロディの両親の造型と、何でもアリのニューヨークの許容力とを対比させる構図も、あえて深く突っ込まずにコメディのモチーフの一つとして片付けているのも気持ちが良い。本作には基本的に悪人は出てこないので、物語は円満に収まるところに収まって終わるのだが、そこには“勇気を持って踏み出せば、人生は捨てたものではない”という作者のポジティヴなスタンスが背景として存在している。だから観賞後の印象は格別だ。

 デヴィッドをはじめヒロイン役のエヴァン・レイチェル・ウッド、パトリシア・クラークソンらキャストも万全。会話の面白さはもとより、ギャグは良く練り上げられていて全編笑いが絶えない。大向こうを唸らせるようなシャシンではないが、観て損のない映画である。

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