元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ワールド・アパートメント・ホラー」

2017-09-08 06:32:23 | 映画の感想(わ行)
 90年作品。大友克洋監督による実写映画としては他に「蟲師」(2007年)があるが、私は未見である。ただし、アニメーション作家の印象が強い大友だが、オムニバスや短編を除いた長編アニメは2本だけで、現時点では(自主映画を除いた)実写作品と同数である。だから“アニメーション映画の作り手として云々”という前置きは適当ではなく、虚心に一本の劇映画として接するのが相応しいと思われるが、それにしても本作は面白い。この時期の邦画を代表する快作だと思う。

 東京の場末に建つ古ぼけたアパート・南海荘には、不法滞在しているアジア人が多数住み着いていた。彼らを叩き出すため地上げ屋からチンピラヤクザのヒデが派遣されるが、なぜか錯乱状態に陥って撤退。代わりに弟分の一太が送り込まれ、さっそく嫌がらせを開始するが、住人たちはまったく動じない。

 それどころか彼らのトンチンカンなリアクションにより、一太のストレスは増すばかり。やがてアパート全体にポルターガイスト現象が起こり、一太は発狂寸前。住人たちは悪魔払い師を呼び、怪しげな儀式を始めて何とかその場は収まるが、今度はヤクザたちがアパートに乗り込んで大乱闘が勃発する。

 幾何級数的に大きくなる騒ぎを、腰砕けにならずに最後まで引っ張る演出に感服する。俯瞰やローアングルを多用したカメラも効果的で、どんなに際どいシーンにも笑いを忘れないところは流石だ。

 そして下っ端のチンピラに“日本人は、白人だァ!”と叫ばせてしまうシニカルな視点は、現代にも通じる危うい現実認識を感じさせてドキッとする。今の日本にはアジア人労働者は必要不可欠で、その数は増えていることは頭では分かっているのだが、ついついその存在に鬱陶しさを覚えてしまう我々の“本音”を突きつけられる思いだ。そして、この汎アジア的な視点をオンボロアパートのドタバタ劇というマイナーな題材で扱ってしまう野心的な作者のスタンスを評価したい。

 SABUや中村ゆうじ、中川喜美子、出川哲朗といった濃いキャスティングも要チェックである。またスタッフに(今は亡き)アニメーション界の鬼才・今敏が加わっていることも感慨深い。

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