元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サマーウォーズ」

2009-08-22 06:37:47 | 映画の感想(さ行)
 脚本の素晴らしさに圧倒される。古き良き日本の家庭の血脈と、ネットワーク上で発生した世界を破滅させるほどのクライシスとが全く違和感なく同居している不思議。さらにはこれはホームドラマやSFものであるばかりではなく、青春映画であり、アドベンチャーであり、スポ根ドラマでさえある。それらの要素が絡み合い、大いなるクライマックスに向けてヴォルテージを幾何級数的に上昇させ、爆走してゆくさまは、まさに壮観と言うしかない。

 数学が得意という以外は何ら取り柄のない高校生が、一級上の美人の先輩に無理矢理に連れ出された先は、長野県上田市にある彼女の実家だ。一家の女当主の90歳の誕生日を祝うために集まった一族郎党は約30人。共働きの両親とは疎遠になりがちな主人公にとって、多数の人員による濃密な人間関係の中に放り込まれるということ自体が“未知との遭遇”なのだが、本作のエラいところはこれを単純な“都会と田舎との対立構図”に振っていない点だ。



 ただ“ディープな人々に出会って、こういうのも良いなあと思いました”という底の浅い“感想”の表明には終わっていない。深いところからドラマを立ち上げるため、作者はあらゆる手を打ってくる。同時進行で描かれる、社会システムともコミットする巨大ネットワークの危機が、この一家の放蕩息子の仕事ぶりに端を発していることで、田舎の旧家の人間模様と密接にリンクしてくること自体は良いアイデアだが、それだけではまだ不足だ。

 そこで本作では、ネットワークの動作レベルの上に人間関係の有り様が存在しているという、考えてみれば当たり前だが昨今は失念している者が多い重大なテーマを据えている。しかもそれは安易な“ネット軽視”には陥っていない。ネットを動かしているのは人間であり、逆にネットによって使い手の新たなリレーションシップが発展するという、一種の理想像を何の衒いもなく提示している点が感動的だ。



 前作「時をかける少女」でもその有能さを発揮した細田守の演出はテンポが良く、一点の緩みもなくドラマを加速させる。地表に落下しそうになる人工衛星とか、折しも開催されている高校野球の県大会にヒロインの従兄弟が参加しているとかいったサブ・プロットも実に有機的に機能する。ノスタルジックな田舎の風情と、シャープな電脳世界との対比も目を見張るようだ。

 そしてキャラクター設定は見事で、無駄な登場人物がまったくいない。神木隆之介、桜庭ななみ、富司純子、谷村美月といった“声の出演”も申し分ない。欠点が見当たらない特上の娯楽作品であり、ラストに流れる山下達郎のナンバーが爽やかに響く。この夏随一の目玉商品だ。

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