元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「この愛のために撃て」

2011-09-21 06:36:17 | 映画の感想(か行)

 (原題:A bout portant)キレの良いフランス製活劇の佳編である。上映時間が1時間25分という小品ながら、見せ場がギュッと凝縮されており、最後まで息をもつかせない。余計なエピソードを突っ込みすぎて無駄に長いだけの娯楽映画が目立つ昨今、こういう作品の存在は貴重だ。

 パリ市内の病院に勤める看護助手のサミュエルは、突然自宅に押し入ってきた何者かに臨月の妻を連れ去られる。無事に返して欲しければ、入院している身元不明の男を病院から連れ出して引き渡せというのだ。殺人事件に関与している可能性が高く、警察の監視も付いたその男を看護助手の立場を利用して院外に運び出したサミュエルだが、当然ながら犯罪組織と警察との両方に狙われるハメになる。果たして、彼は包囲網を突破して妻を取り返すことが出来るのだろうか。

 傷付いた男がビルの中を追われ、外に出た途端に交通事故に遭う冒頭のシーンは実にスリリングで、まさに“ツカミ”はオッケーだ。そして一転サミュエルとその妻とのラブラブな関係を丁寧に描くシークエンスを挿入し、静と動とを巧みに配置して作劇にメリハリを付けると共に、主人公が一種無謀な行動に走るのも当然と思わせる妻との濃密な関係を描き出すという、監督フレッド・カヴァイエの腕は確かでソツがない。

 事件はどうやら警察内部の不穏分子が絡んでいるらしいのだが、そいつらが正体を現すタイミングが絶妙。さらにサミュエルとくだんの男とが共闘関係を組み、バディ・ムービーとしての面白さも醸し出す。サミュエルが地下鉄の駅を逃げ回るパートは本作のハイライトで、リアルで即物的なアクションが次々と飛び出す段取りの良さには感心するしかない。

 攫われた妻は“意外なところ”に軟禁されているのだが、彼女の口を塞ごうとする悪者と救出に駆けつけるサミュエル、そして需要証拠品を奪取せんとするくだんの男という、3箇所同時進行のサスペンスが展開する贅沢さ。事件の鮮やかな幕切れと、それに続く気の利いたエピローグまで、しっかりと楽しませてくれる。

 もっとも、昏睡状態に陥っていた男が注射一本ですぐに目を覚まし、ただちに大立ち回りをやらかす等の突っ込みどころもあるのだが(笑)、観ている間はそれほど気にならない。

 主演のジル・ルルーシュをはじめエレナ・アナヤ、ロシュディ・ゼムなど日本で馴染みのないキャストばかりだが、それぞれ実に良い面構えをしている。アラン・デュプランティエのカメラによる、寒色系を主体としたストイックな画面造型も要チェックだ。

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