元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」

2021-11-21 06:57:03 | 映画の感想(さ行)
 (原題:SOUND OF METAL)世評はとても高く、米アカデミー賞をはじめ各アワードを賑わせていたが、個人的には気に入らない。とにかく、設定やストーリー、各モチーフに釈然としないものが目立ち、ほとんど感情移入が出来なかった。もっと平易で普遍性の高いネタや筋書きを用意すべきだったと思う。

 ドラマーのルーベン・ストーンはガールフレンドのルーと一緒にロックバンドを結成し、トレーラーハウスに乗り込んでアメリカ各地をツアーで回る日々を送っていた。だがある日、突然ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまう。慌てて病院に駆け込むが、医者からは治る見込みが無いと言われる。自暴自棄で荒れるルーベンだが、プロモーターの紹介で聴覚障害者の支援コミュニティに参加することを決心する。そこで安らぎを得る彼だったが、ミュージシャンに復帰する夢を諦めていたわけではなかった。



 音楽を生業にしていた主人公が聴覚を失うという、途轍もなくシビアな状態を描いているのだが、どうもルーベンは共感しにくい人物だ。彼がこういう目に遭ったのは、もちろん直接の原因は分からないのだが、ドラッグに溺れたこともあり、それからも健康的とは言えない生活を送っていたことを考えると、ある程度“自業自得”ではないかという気がする。しかも、耳をつんざく大音響に始終さらされる仕事環境だ。

 だいたい医者からの当初の告知は“残されたわずかな聴力を出来るだけ維持するしかない”というものではなかったか。治療やリハビリのプロセスをスッ飛ばして、いきなり全聾者の集まりに身を投じるというのは、何か違う気がする。かと思えば、後に彼が治療法を探そうとしたとき、このコミュニティは冷たい態度を取ったりする。そもそもこの集まりは教会からの支援を受けているらしいが、どうもある種の宗教団体であるような気がしてならない。メンバーを外界から遮断するというこのコミュニティの方法論で、果たして構成員が救われるのかどうか怪しいところである。

 また、ルーベンとルーがやっている音楽は過激なメタルコアであり、ロック好きの私でも敬遠したくなるようなシロモノだ。終盤は“まあ、仕方が無いな”と言うしかない展開を見せるが、正直“もっと別の道を前に選択出来たのではないか”と思ってしまった。

 監督のダリウス・マーダーは、そこそこ無難な仕事ぶり。主演のリズ・アーメッドは頑張っているし、ルーに扮するオリヴィア・クックは魅力的。ポール・レイシーにローレン・リドロフ、マチュー・アマルリックといった脇の面子も悪くない。それだけに、要領を得ない筋書きは残念だ。

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