元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウインド・リバー」

2018-08-06 06:23:23 | 映画の感想(あ行)

 (原題:WIND RIVER)舞台設定は興味深く、扱っている題材も興味を惹かれる。さらにキャラクターの配置も申し分ない。監督のテイラー・シェリダンはシナリオライターとして実績を積んだ上で、今回初めてメガホンを取っているが、演出家としても非凡であることを立証したと言えよう。

 ワイオミング州の先住民保留地。地元のベテランのハンターであるコリーは、山奥でネイティヴ・アメリカンの血を引く若い女の死体を発見する。何者かに追われた彼女は、極寒の中で息絶えたらしい。凶悪事件の様相を呈したこの一件にFBIも介入するが、現地に派遣されたのは新米の女性捜査官ジェーンただ一人だった。土地勘の無いジェーンはコリーに捜査協力を依頼する。犠牲者はコリーの親友の娘であることが判明するが、コリー自身も娘を数年前に謎の事故で亡くしており、それが切っ掛けで妻とは別居状態になっていた。やがてコリーとジェーンは、この地域社会の裏に存在する闇の部分に迫ってゆく。

 とにかく、彼の国では現在においても先住民を実質的に“隔離”するような政策が罷り通っていることに、改めて驚かされる。もちろん、先住民側にも“民族性”があり、そう簡単にアメリカ社会と同化出来るものではないことは分かる。しかし、映画で描かれているように、彼らが住む土地にはめぼしい産業も無く、厳しい生活を強いられている状況は、とても正常とは思えない。さらに、この地には食い詰めた貧しい白人達も流れてやってくる。治安が悪化するのも当然だ。

 シェリダンの演出は弛緩した部分が見当たらず、後半に見られる回想部分のトリッキーな御膳立てや、終盤に突如現出する近距離での銃撃戦の激しさなど、引き出しの多さを見せつける。コリーが自身の辛い過去に折り合いを付け、またジェーンも捜査員としての成長を見せるという、人間ドラマとしての側面も忘れてはいない。

 主演のジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンは、言うまでもなく「アベンジャーズ」の構成員である(笑)。もちろん今回は正攻法の演技に徹し、それなりの成果を上げている。これまでいくつかの主要アワードにノミネートされてきたレナーの健闘ぶりは予想通りだが、オルセンはアメコミ作品に出ているときよりも数段魅力的に見える(メイクが薄めであることも大きいかもしれない ^^;)。

 ベン・リチャードソンのカメラによる、身を切られるように冷たいアメリカ中西部の山間地帯の情景。ニック・ケイヴとウォーレン・エリスの音楽も効果的だ。なお、本作はかの悪名高きハーヴェイ・ワインスタインが製作に関与している。第70回カンヌ国際映画祭では“ある視点”部門に出品され監督賞を受賞する等の実績を上げたが、米国内の賞レースには縁が無かったのは、そのためかもしれない。

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