元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウェディング・バンケット」

2018-01-07 06:43:43 | 映画の感想(あ行)
 (英題:The Wedding Banquet )93年台湾作品。この頃のアン・リー監督の才気が存分に発揮された一本。第43回ベルリン国際映画祭での大賞受賞をはじめ、数々のアワードを獲得している注目作だ。

 ニューヨークで同性愛のパートナーと優雅な同棲生活を送る台湾人の青年ウェイトン。縁談を次々と持ってくる故国の両親を安心させるため、グリーンカードを欲しがっていた中国人の女流画家と偽装結婚を成立させる。ところが、この吉報を聞いて両親がニューヨークを訪れ、ウェイトンは結婚披露宴(ウェディング・バンケット)をおこなうハメに・・・・。

 まず、結婚に対して保守的な中国系社会で、ゲイを描いていることが新鮮。さらにアメリカ社会におけるアジア人のアイデンティティ、同性愛と性的役割分担のディレンマや、ニューヨークの厳しい人種問題など、重大なテーマを貪欲なまでに取り込みながら、映画自体はなんと軽やかでウィットに富んでいることか。



 圧巻は結婚披露宴の描写だ。極彩色のセットと強烈な民族音楽。延々と続く出し物、賑やかな宴に浮かぶ喜びにあふれた人々の顔、顔、顔。中国五千年のプレッシャーが一気に爆発したようなパワーを感じる、まさに一大スペクタクル。この勢いに押されて、さすがの主人公も彼女とうっかりベット・インしてしまう。そして何と御懐妊。はたして彼はこの混乱した恋愛関係を清算できるのか・・・・。

 中国の伝統的価値観の“子宝”とゲイカップル。相入れない要素が乱立する時、そこに新しい展開が生まれてくる。初めて直面する“結婚”というドラスティックな事象を前に、モラトリアムから足が地についた人生を歩みはじめる3人の若者たちの姿は感動的でさえある。そしてそれは彼らの両親たちの世代も巻き込んで、混乱から変革へと向かう多民族世界をも象徴している。実に巧妙な映画作りは、これが長編第二作の監督の作品とはとても思えない。

 ウェイトンを演じるウインストン・チャオは中華航空のスチュワードをやっていたという変わり種。私は本作をアジアフォーカス福岡映画祭で観たが、舞台挨拶に出てきた彼は映画よりもイイ男である。ヒロインに扮するメイ・チンは台湾の人気歌手、ウェイトンの“恋人”サイモン役にはロバート・アルトマン監督の「ストリーマーズ 若き兵士たちの物語」(83年)でヴェネツィア国際映画祭で主演男優賞に輝いたミッチェル・リヒテンシュタインが演じている。スタッフ・キャストとも、当時の新進気鋭の人材が集まった、フレッシュな映画だ。

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