元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ライフ・ウィズ・ミュージック」

2022-03-28 06:23:20 | 映画の感想(ら行)
 (原題:MISIC )好き嫌いがハッキリと分かれる映画だが、私は気に入った。ミュージカル仕立てながら、昨今の「ウエスト・サイド・ストーリー」や「シラノ」などより楽曲の訴求力が高い。監督自身がミュージシャンであることも関係していると思うが、作者は音楽がドラマにリンクする手順を知り尽くしているような印象だ。また、ストーリーも味わい深い。

 ニューヨークに住む自閉症の娘ミュージックは祖母と2人暮らしだったが、ある日祖母が急逝してしまう。彼女の唯一の身寄りは、年の離れた姉のズーだけ。しかも姉は長らく妹と疎遠で、おまけにアル中でヤクの売人もやっている。突然に姉妹だけの暮らしを強いられた彼らが上手くいくわけがなく、2人の仲はギクシャクするばかり。そこに優しく手を差し伸べたのが、隣に住む黒人青年エボだった。実はエボも屈託を抱えているのだが、思いがけず知り合った姉妹と何とか生活を立て直そうとする。



 ドラマの中で楽曲が披露されるという通常のミュージカル映画のルーティンは採用されておらず、ドラマの合間にミュージック・ビデオ風の場面が挿入されるという形式だ。ミュージカルとしては邪道だと思えるが、これが結構功を奏している。物語の設定自体がヘヴィであるから、ストーリーの中に無理矢理ナンバーを押し込めると居心地が悪くなる。ミュージカルのシーンが登場人物の心象をあらわす媒体であると割り切っているようで、これはこれで正解だ。

 メンタル面でハンデを持つ妹と、社会のはぐれ者である姉との話はどう見ても暗くなりそうなのだが、エボをはじめ周囲の人々は思いのほか親切で、映画の印象は明るい。それが絵空事になっていないのは、作者のポジティヴなスタンス故だろう。

 監督はオーストラリアの異能シンガーソングライターのSiaで、楽曲は彼女の書き下ろし。メガホンを撮るのも脚本に参加するのも初めてだということだが、展開が破綻することは無く、仕事ぶりは驚くほど達者だ。そしてミュージカルシーンのカラフルな造形には見入ってしまう。ズーを演じるのはケイト・ハドソンだが、最初彼女だと分からなかったほどの異様な外見でびっくりした。気が付けば彼女も中年に達しており、思い切った役柄への挑戦も評価したい。

 エボ役のレスリー・オドム・Jrも良いのだが、驚愕すべきはミュージックに扮したマディ・ジーグラーである。本当にメンタルに問題を抱えているのではないかと、観ていて焦ったほどだ。この演技力とルックスの良さ、そして2002年生まれという若さは、今後の活躍を期待させる。本年度の新人賞の有力候補だ。セバスティアン・ウィンテロによる撮影、ライアン・ハフィントンの振り付け、いずれも言うことなしである。
コメント
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